毎週水曜日定期発行
Weekly Mathematics Magazine
《数学通信》
MAT-33 1993.2.17(Wed)

★1+1=1/2となる事もある!!★〜志しを取るか?,力を取るか?〜

となる事は君達は小学校の時に習ったから知っているよね.だけれど,何故で3,4にならないのだろうか?この質問というか,疑問はよく言われる事だよね.エジソンの話なんかに出てくる有名な物だから,これを使って数学の先生をやりこめようとしたりする者が出て来るんだよね.

ただ,現実はそんな質問一つで数学の先生をやりこめる事などできないし,それ以前の問題として,その質問をする資格,力を君達が持っていないという事である.質問をする以上,その解答,解説を理解出来なければいけない.それが出来ないのであれば,その質問をする資格がないという事である.

となる事の説明(証明ではない.証明する内容ではないからだ.)は,このMAT Informationで近々話そうとは思っているのだけれども,ただ心配なのは,果たして,君達に俺の説明を理解できるだけのレディネス(学習準備状態)があるかである.

まあ,それはいいとして,今回はもっと概念的,観念的,そして精神的な話をしようと思っているのである.

我々の日常生活は,純粋に数学を楽しむように,単純明快に割り切れるものではない.

もちろん,数学が総て単純明快に割り切れて答えられるものではないのだけれどもね.この点については強く言っておきたい.ただ,そんな俺の言葉も,今の君達には理解できないであろうけれども.実は数学は,単純明快でもなければ,割り切れるような答がでる保証の欠片もない.ところが,君達が接してきた数学,数学のほんの一部であるが,その世界は総て綺麗に答が出せて,数学は単純明快であるかのように見せているから困ったものである.

だから,上記のような表現を使った訳であるが,我々の日常生活は実に泥々としているものばかりである.

そんな日常の世界で,自分の夢とか,希望とか,志しを実現しようとしていく事はものすごく難しい.特にそれが,子どもの純粋な夢のようなものであればあるほど,大人達の反発,抵抗は大きくなかなかその実現にたどり着けない,あるいは潰されてしまう事もあるのである.潰されないようにするにはどうしたらいいか?簡単である.力を持てばいいのである.潰しにかかる力に負けないだけの力を持てばいいのである.はっきりとした答である.

ところが,この力が問題なのである.

それでは政治家を例に取って話をしてみよう.君達は政治向きの話は好きではないかも知れないが,政治の話が実に見事にあてはまるのである.それほど難しい事を言うつもりもないので最後まで読んでもらいたい.

今の政治家,政治にすっかり失望してしまった若者がある日突然立ち上がったのである.”このままでいいはずがない.俺達若い者が今こそ立ち上がって,日本の政治をクリーンなものにしなければいけない!!”と.

政治を変えるためには,政治を変えれるだけの力が必要になる.日本で政治を変えるためには,政治家になり,政府の最高責任者,いわゆる総理大臣になり,それも実力のともなう総理大臣になり,行政の力で政治そのものを変えていくしかない.そのためには政権を掌握する政党を創立し,自らの志しをその党に反映させなければいけない.既存の政党,自民党や,社会党,共産党などではダメなのである.新党が必要になるのだ.何故ならば,既存の政党に今の日本の政治をクリーンにする力はないし,自民党以外は政権を取る気すらないのだから.

そこで,代議士になるためにと,政党を作るためにと若者は仲間を集める事にした.そう,一人では代議士になれないし,政党も作れないから.志しを同じにする仲間を集めた.2人,3人と.代議士に当選できるようにと,基盤組織を作った.選挙で自分を応援してくれる仲間組織を作った.残念ながら,今の日本では,政策がどんなに優れていても政治家にはなれないのである.どんなに人物が優れていても,政治家にはなれないのである.そんなシステムなのである.それがいいとか悪いとか言っていられない,現実の問題なのである.だからこそ,若者の行動は当然の事なのである.自分の志しに共感をしてくれる仲間で基盤組織を作り,志しを同じにする仲間で新党を作る.(現実はそんなに簡単ではないのだけれど.)

ところが,ここに大きな落とし穴がある.となる,それは正しい.一人よりも2人の方が組織の力としては大きい.一人よりも10人,100人の方がもっと力は大きい.となるように,となるように.組織の力は,人数が増えれば増えるほど増加する.それは足し算のように,あるいはかけ算のように.力が増えれば,自分の意見を通す事もできる.いや,正しく言えば,自分達の意見を通す事ができるのである.

そう,組織力が増す毎に,それに伴い減っていくものがある.それが志しである.当初持っていた若者の志しが減っていくという事ではない.若者が持っている志しはいつまでも変わらない志しとして,若者の胸の内に熱く燃え上がっているのである.だが,どんなに若者の志しが熱く燃え上がっていようが,組織の中では若者は一人分しか占める事が出来ない.10人の組織の中では1/10,100人の組織の中では1/100,それだけしか割合として占められないのである.であれば,志しも1/10,1/100しか出せないのである.

そんなはずはない.組織を作るときに,同じ志しの者を集めたのだから,組織を作るときに,共感してくれる者達で組織を作ったのだから,1/10や1/100になる事はないはずだ!!そう考えるのはもっともだし,理想論である.そう,現実はそんなに綺麗なものではない!どんなに志しが同じだといっても,その志しの全てが若者と同じであるはずがない!若者の胸の内に100の志しがあったとしよう.その若者が1つの志しとして,日本の政治をクリーンにしよう!そう叫んだときに,それと同じ志しを持つ者が集まっただけである.つまり,100の内の1つの志しを同じにした者が集まっただけで,残りの99の志しは違うかもしれないし,実際には違うのである.そして,たとえ同じ志しを抱いていても,それを実行する方法論は違っていたりする.

更に悪い事に,人は力を持つとかならず奢る(おごる)のである.権力が手に入ると,人は堕落するのである.どんな人間でもである.力とは,権力とは両刃の剣である.

どんなに頑張ったところで,どんなに理想的な組織を作ろうと心がけても,一人の志しの全てが実現できるような組織などは存在し得ないのである.言い替えるならば,自分一人の志しを総て実現しようとするのであれば,方法は一つしかない!完全なる独裁!!それ以外にないのだ.

仲間を集めて組織としての,集団としての力を強くすればするほど,個人の志しはどんどん減っていく.結局,組織としては,組織を構成する構成員の志しの最大公約数的なものを選んでいかなければ,組織として動けなくなるのである.力がつけばつくほど,組織がでかくなればなるほどである.そして,組織の力が大きくなれば,組織そのものが大きくなれば,その力の恩恵に与りたいと,志しすら持たない矮小な輩が有象無象のごとく,集まってくるのも組織である.

結局人はこの矛盾の中で,志しを捨てて,力を選ぶのである.それが今の日本の政治家達であり,政党である.社会党も共産党も,結局のところ自民党と何等変わりがないのである.そんなものである.

とはならないのである.

だから,ではないが,俺はいつも個を選ぶのである.もちろん力は必要なことは認めるし,力が欲しいとも思う.だが,力を手に入れるために自らの志しを捨てなければならないのであれば,そんな力はいらない.力を手に入れるために志しの全てが言えないような,あるいは言っても無視されるようなそんな組織の中に自らを置きたくはない.それぐらいならば,一人気ままに志しを友として生きていった方がいい.

難しい問題である.これは明らかに矛盾なのだから.志しを実現するために力が必要なのは判る.だが,その力を手に入れると,志しが実現できなくなるのである.ということは,どうあがいたところで,自らの志しは実現しないことになってしまう.それを認めることは余りにも悲しい.

〜続く〜

Printed in Tounn.1993.
Written by Y.O^kouchi.1993.
Copyright 1987,1993 MAT Inc.
MAT is Mathematics Assist Team Corporation.