毎週水曜日定期発行
Weekly Mathematics Magazine
《数学通信》
MAT-43 1993.4.28(Wed)

★C&G★ Clean & Green 〜美しき地球を子ども達に託したい.〜=Part-2=

【失った物は取り戻せない.壊してしまった物は元通りに戻せない.】

日本狼がいい例である.狼は生きていく為に獲物をとる.昔,森がまだ人の入らぬ本当の森であった頃はまだいい.森の中を鼻をきかして歩けば,獲物の臭いを嗅ぎ分けれた.野兎もいたし,雉もいただろう.餌になる小動物には困らなかったはずだ.しかし,人が山を荒らし,動物達の住処である森を壊して行くにつれ,狼の餌となる小動物も減り,しかたなく,人里に降りてきて家畜をねらう.人間に飼われている,鶏や子豚などは狼の格好の獲物になる.人間は,家畜が襲われるので,狼狩をする.犬を放ち,猟銃で狙いをつけ,生きて行くために精一杯の狼に,与えられた命を精一杯生き抜こうとしている狼にとどめを刺す.更に追い打ちをかけるように,子ども達に狼は恐ろしい生き物だと説く.家畜を狙う悪い生き物だと教える.小動物を情け容赦なく喰い殺す悪魔のような奴だと子ども達に狼への恐怖心を植え付ける.狼は生きていく場所を失い,命を狙われる危険にさらされ続けて,やがて絶滅していく.

狼が何をした?ただ生きたいと願ってただけなのに.悪い事などしていないのに.

生きていくにもルールがある.自然界で,この地球上で生きていくためにはルールがある.いや,正確にはルールがあったはずだというべきだろう.人間だけが守らずに,人間だけが好き勝手にやってきた.その結果が今の地球だ.

自分の子どもが大人になり,母親になる頃,地球はどうなっているのだろうか?大気は汚れ,地上では酸素マスクをしないと呼吸ができないとか,宇宙服のような物を着ないと死んでしまうとか,そんな地球になっていないだろうか?

まだ,緑はあるだろうか?小鳥のさえずりや,命のきらめきはあるだろうか?

君達は,いや,我々はもっと真剣に考える必要があると思う.君達には聞こえないかい?命の叫びが!考えて欲しい,真剣に!

これは笑い事でもSFでもない.近い将来,必ずなるであろう地球の姿なのであるのだから.その地球では,君達の遠い子孫が,我々を恨みながらそれでも健気に生きているのだから.

美しき地球,緑豊かな地球,大切にしたいし子ども達に残したい.

例えば,緑豊かな地球.豊かな森がいたるところに存在し,小鳥達が自由に飛び交い,動物達が気ままに走り回る.そんな大地になっていたらいいなと思う.が,しかし,地球には限度がある.広さには限度がある.宇宙からみた地球は水に包まれた青く美しき惑星だ.当然の事ながら,大地の広さには限りがある.緑豊かな大地を残すためには,これ以上の乱開発は許されない.いや,100年以上以前の自然に,500年以上以前の自然に戻さなければいけない.しかし,それができるだろうか?

我々は今の文明が当然の事のように毎日を過ごしている.全ての道具は電気というエネルギーを介して,人の手を煩わせずに働く.夜は夜で明々と電気が街全体に点り,夜空の星の瞬きさえ消してしまう.もはや地球上に秘境はなく,遠く海を隔てた国へも日帰り旅行ができる時代だ.森林が,石炭が,石油が,地球上に存在する大切な限りあるエネルギー資源が日々消費され続けている.浪費され続けている.放射能が,排気ガスが地球上をじわりじわりと,しかし確実に汚染していく.生活が便利になるなら,生活が豊かになるなら,多少の犠牲は仕方がないと,自然破壊に目をつむり,大気汚染を我慢して,一夜の逢瀬を楽しむかのように毎日を狂喜乱舞して生きている.今という,刹那の快楽に身を投じている.

俺もその一人である.えらそうに,美しい地球を残そう,緑豊かな地球を残そうと言いながらも俺自身地球を汚し,緑を減らしている一人なのだ.

自動車に乗っている.大気汚染が問題にされているのを知っていながら,毎日自動車で通勤している.紙を無駄にしている.割り箸を使っている.不要の包装紙をごみ箱に捨てている.緑豊かな大地を,森に活力を,と言いながら,仕事で使う紙をどちらかと言えば大切にしていない.これでもか,これでもかと君達にプリントを配る.今こうして書いている文章も君達の手に渡るときは紙で渡る.食堂に行けば,ラーメンなんかを食べるのに自分で箸を持ち歩かないので当然の事ながら割り箸を使う.日本人が消費する割り箸の量が膨大で,世界の自然保護団体から非難を浴びていると言う事は知っていても,つい,割り箸を使う.デパートの豪華な包装紙も過剰だと感じながらも,それを再利用せずに捨ててしまう.

これだけの事実を並べただけでも,俺の犯している罪は大きい.えらそうに言う資格もないかも知れない.

だが,思うは思いとして,痛切に感じるのだ.行動が伴わないのではなく,心だけが感じるから.

これは明らかに矛盾であるし,これではただのない物ねだりになってしまう.そう,人に言わせればわがままなのだ.自分の今の生活を失わないで,100年前の大地に,500年前の緑豊かな地球にしたいという.確かに,そう言われればわがままであるし,自分勝手である.

でも,よく自分の心の中を見つめて欲しい.俺が話した想いが君達の心の中のどこかに,心の片隅にでもないかい?きっとあるはずだ.誰もがみんな本当は思っている.心の片隅で自然に恵まれた,小鳥達がさえずる,動物達が群れ走る,そんな世界で生きて行けたらいいなと.

ただ,今の生活を捨てる勇気がないのだ.ボタン一つでなんでもできる今の生活を捨てて,自分の力で汗水流して働いていこうという勇気がないのだ.

俺もその一人だ.君達だけではない.情けないが・・・.俺も同じなのだ.そして,そんな自分に,自分自身に腹が立つ.悲しい想いだがこみ上げる.やり場のない,空しい怒りがこみ上げてくる.

我々が,人類がまず解決しなければ行けない問題は,余りにも沢山ありすぎてどれが一番の問題なのかは解らないくらいだ.増えすぎた人口,複雑な人種問題,譲り合えない宗教問題,国家間の貧困の差,南北問題,東西問題,民族運動などなど,全ての問題が複雑に絡み合って一つだけを単独で解決する事ができないのが現代だ.

いなごの話をしたと思うが,増えすぎた自分達を自ら調整するという話だ.人間にいなごと同じ事ができるだろうか?これほどまでに増えすぎた人口を減らす事ができるだろうか?そう,あのいなごのように.

すでに人間は自然から与えられた自然界の摂理調整能力を失っている.人間は地球上に生きていながら,地球上のルールに従えない体質になっている.いなごのように人口を調節する事などできるはずがない.もはや人類は増え続けるしかない.それは破滅への道を転がり落ちて行くかのように.

〜続く〜

Printed in Tounn.1993.
Written by Y.O^kouchi.1993.
Copyright 1987,1993 MAT Inc.
MAT is Mathematics Assist Team Corporation.