毎週水曜日定期発行 Weekly Mathematics Magazine | 《数学通信》
MAT-48 1993.6.2(Wed) |
★人口増加問題に隠された指数関数曲線★〜人類の未来は暗い!!〜
よく引用される例で恐縮ではあるが,指数関数のグラフを学んだ君達に,社会現象の中に存在する指数関数のグラフの話をしてあげよう.それはとりもなおさず,人口問題である.
現在,地球の人口は何人ぐらいだと思います?ちょっと古いが,1987年,そう,この偉大なる大河内大先生が,MATを提唱したその年に,国連の発表によると50億人を越えたということである.まあ,君達にすれば,そんなものか!という程度にしか聞こえないであろうが,俺が習った世界の人口は,36億人であった.今から20年前の話である.たった20年で14億人である.もちろん現在は1987年当時よりも増加しており,54億8,000万人もいる.
さらに国連の予想によれば,現在の54億8,000万人の人口は,毎年9,700万人ずつ増え続け,やがて2025年には85億人,2050年に100億人,最悪の場合には,2050年に125億人にもなっているかもしれないというのである.
考えただけでも空恐ろしいことである.
ちょっと,下のグラフをみていただきたい.左側が,人類誕生から西暦2000年に至るまでの人口増加の推移である.このグラフの形はどこかでみたことがあるのではないかな?そう,そうなんだよ!あの指数関数に似ているのだよ.右側の指数関数のグラフと見比べてみてごらん酷似しているだろう!
世界の人口の増加の推移と2000年予測 (「週間朝日百科 世界の地理 110」朝日新聞社)
人間がこの地上に姿を現したのが今から170万年前.人類が発展を始めたのが今から1万年前.その1万年前から比べてみても,人類は長い間その数を増やすことができなかった.上の左側のグラフをみてもらえればわかる.そう,あの産業革命が起こるまでは.それまでの長きに渡っては,もちろん人類の歴史において長いと言うだけのことで,地球そのものの歴史からみればそんなものは瞬きのごとき長さしかないのであるが,チョビチョビと,それこそほんの僅かづつしかその数を増やすことができなかった.
ところが,産業革命が起こり,技術力が脅威的に発達するにつれて,それに引きずられるように,科学全般のレベルアップが図られていった.もちろん医学も.食生活も当然のことながら豊かになる.技術力の向上は,よい製品をよりやすく,大量に供給することができるようになっていったのである.それは工業製品だけでなく,農業製品にしても同様である.大量生産,大量供給による価格の低下,それは豊かな食生活を人々にもたらし,医学の発達は寿命を延ばしていった.今までならば死んでしまうような病に対しても,次々に抗生物質が開発されていき,まさにそれは人々に死の恐怖を忘れさせていった.多少のけが,多少の病気では死なないのである.大量生産,大量供給は人々に仕事の細分化,多様化を要求し始めた.そして,それは働き手をも要求することになった.そう,流通経済の始まりである.サービス産業の始まりである.働き手はいくらでも必要になる.それこそ子どもの手も借りたいのである.
貧しさは,労働で解決できるようになっていった.働きさえすれば豊かになれる.そのためにも働き手が必要である.国家も豊かになるためには産業を更に発展させる必要がある.国家と国民,その両者の思惑がまさにピッタリと一致したのである.『産めよ!増やせ!』のかけ声のもと,まさに人々は子どもを生んだ.「子どもは国家の宝なり.」まさに,人そのものが,生命そのものが,人口の数が国家の威信に繋がっていった.
イギリスを皮切りにその産業革命は当時の先進諸国を駆け抜けた.そして,人口の急激な増加もこのときの先進諸国を皮切りに始まったのである.
坂道を転がる玉のようなもので,一度転がり出すと,もう止まることはできない.加速度を増して転がり続けるしかない.
人類の未来が人類の思い描くとおりになっていくほどに生やさしいものではない.増え始めた人口と,産業革命は,南北問題という新たな局面にぶつかった.
人は誰も豊かになりたいと思う.当然の欲望である.北の先進国の人々の豊かそうな,進歩的な生活に南の後進国の(現在はこういう言い方はしない.差別的であるということで,発展途上国といっているが,そんな表現上のことはどうでもいい.)人々が憧れないはずがない.当然先進国に追いつこう,追い越そうと躍起になる.
だが….技術力も,経済力も,科学力も格段の差がある.政治的にも不安定な国が多い,南には.何しろ,ついこの間まで,北の,先進国の植民地だったのだから.
中途半端なのである.全てが.増え始めた人口は加速度を増して増えていく.しかし,それに見合うだけの経済力を国家そのものが持ち合わせていないとき,そこに悲劇の始まりがある.中国やインドをみてみるといい.この両国で地球上の人口の過半数を占めている.ところがこの両国にはそれだけの人口を養うだけの経済力がない.当然のごとく,貧しさがそこにはある.人々はその貧しさから脱したいがために子供を作り,子どもを働き手として,貧しさから脱しようとする.子どもは家庭を潤すための働き手である.が,同時に増えすぎた子供は家庭を圧迫する原因でもある.ここが難しい.貧しいが故に満足に医者にも通えない.だから,ある程度の自然的な間引きを覚悟して子供を作る.が,間引きされなければ….
Printed in Tounn.1993.
Written by Y.O^kouchi.1993. Copyright 1987,1993 MAT Inc. MAT is Mathematics Assist Team Corporation. |