毎週水曜日定期発行
Weekly Mathematics Magazine
《数学通信》
MAT-53 1993.6.30(Wed)

★三角比で夜空のロマンを見つめる.★

数学Tを終了して,基礎解析へと進んできて,三角比,三角関数を終了した君達だから,この程度の話しには充分についてこれるであろう.そう思って,ちょうど季節的にもぴったりする頃だからとも思って,今回はロマンチックな星空の話しをしようと思っている.そう,三角比を利用して夜空の星々に想いを馳せてみよう!というわけだ.

七夕の話だ.

”飛ぶわし”アルタイルは,中国で”牽牛星”日本で”彦星”と呼ばれる七夕伝説の星だ.普通に言う1等星は全天に20個あるが,正確な明るさが0.8等星のアルタイルはその中で,標準の1等星よりはやや明るいものの,第12位にランクされている.したがって,同じ1等星でも織姫ベガ(織女星)の0.0等星に比べると,だいぶ控えめに輝いている感じのする星だ.

この白色のアルタイルは非常に自転の速い星として知られているが,その回転の速さは,赤道付近でなんと秒速250kmという猛スピードだ.したがって,大きさが太陽の直径の1.7倍もありながら,わずか7時間で1回転してしまうというモーレツぶりである.そのため,星自身もまるで重ね餅のようにすっかり偏平にひしゃげてしまい,赤道の直径は極直径の1.5倍くらいにのびていると言われている.仕方がないのである.実際にアルタイルをその目で見た者が,直に見た者がいないのであるから.

太陽の場合,自転の速さが赤道付近で秒速2kmくらいで,1回転に27日もかかっていることと比べると,アルタイルがいかに高速度でグルグル回転しているかがわかることと思う.

ところで,この彦星は1等星の中でも,こいぬ座のプロキオンに次いで地球から4番目に近いところにある恒星だ.

そこで,それでは一体,彦星と織姫ベガとはどれくらいの距離があるだろうかという事を考えてみる.地球と恒星との距離はわかっているが,以外と恒星同士の距離は知られていない.それではと,我々の,いや君達の出番である.そして,ここで三角比が活躍するのだ.

何を隠そう,余弦定理の登場だ.まさか忘れてしまったなどとは言わないだろうね?下に書いておくから,忘れてしまった者はちゃんと覚え直しておけよ!!!

下の図のように,織姫ベガと彦星アルタイルとを結んでできる角度は35度だ.そして,地球から織姫ベガ,彦星アルタイルまでの距離はそれぞれ26.5光年,17光年ある.

このことから,余弦定理より次の式が成り立つ.求める2つの恒星間の距離をx光年とおくと,

したがって,彦星から織姫ベガまでは,16光年ほどの距離がある事になる.

今仮に,織姫ベガがこの世で1番速い光の速さで彦星に逢いに行っても16年もの月日がかかる事になり,とても1年に1度のデートを楽しむ事など不可能な事になる.

それでというわけではないが,江戸時代にはたらいに水をいっぱいにいれて,それにアルタイルとベガを写して見るというアイデアが考え出されたそうだ.

こうすると,そよ風が吹いて,水面が波立ち,2つの星がゆらゆら揺れて手をつなぐように見える事もあるだろうと言うわけだ.なんとも風流ではないか!

《おまけ》〜余弦定理〜

Printed in Tounn.1993.
Written by Y.O^kouchi.1993.
Copyright 1987,1993 MAT Inc.
MAT is Mathematics Assist Team Corporation.