毎週水曜日定期発行
Weekly Mathematics Magazine
《数学通信》
MAT-60 1993.9.29(Wed)

★無限を見つめる.★〜Part3無限の不思議〜

下の三角形の図を見てほしい.

三角形ABCは正三角形.

各辺の中点をD,E,Fとし,DE,FEを結ぶ.

同じように,三角形DBFについても各辺の中点をG,H,Iとし,GH,HIを結ぶ.

以下同様の作業を続けていき、左図のような三角形を描く.

いま,BからAを通りCへ行く道のりを考える.これをB〜A〜Cと表す.

D,E,Fは各辺の中点であるから,AD=DE,AF=FE。従ってB〜A〜Cは,B〜D〜E〜F〜Cとしても同じである.(∵AB=2DB=DB+DE,AC=2FC=FE+FC)

同じように考えていくと,次のようになる.

B〜A〜C=B〜D〜E〜F〜C

=B〜G〜H〜I〜E〜J〜K〜L〜C

=B〜M〜N〜O〜H〜P〜Q〜R〜E〜S〜T〜U〜K〜V〜W〜X〜C

=B〜Y〜Z〜ア〜N〜イ〜ウ〜エ〜H〜オ〜カ〜キ〜Q〜ク〜ケ〜コ〜E〜サ〜シ〜ス〜T〜セ〜ソ〜タ〜K〜チ〜ツ〜テ〜W〜ト〜ナ〜ニ〜C

=……

さて,この作業を永遠に続けていくとどうなるだろうか?

BA+AC=BCとなるように見えるよね.

だって,無限に上の図の作図を繰り返していくのである.最後には,書ききれなくなるだろうし,B〜A〜CはBCに重なる.

ということは,1辺の長さをaとすると,

2a=a(a≠0)というおかしな式が成り立つことになる.

ウ〜ンこれはどう説明したらいいのだろう?

ちょっと考えてみてほしい.このあたりの内容は,来年の『微分・積分』の学習内容につながっていくところであるから,Bコースの者は特にネ.

無限を考えていくと,いろいろと不思議なこと,おかしなことがでてくる.上の例もその一つである.

ついでにもう一つ.

自然数の集合を考える.この集合の中味としては,

1,2,3,4,5,6,7,8,9,10,・・・といったものが具体的にあげられるが,その個数は?と聞かれると,「無限個」…@と答えざるを得ない.そりゃそうだ.自然数には終わりがない.無限につながっているのである.だから個数も無限個である.それは正しい.

では,次に,整数の集合を考える.この集合の中味は,

とあげられ,やっぱり,その個数はと聞かれれば,「無限個」…Aと答えざるを得ない.

同様に,有理数の集合を考える.・・・-2,・・・,-√2,・・・,1,・・・,√3,・・・の様に表すことができ,個数はやっぱり「無限個」…Bである.

さて,ここで問題である.

@,A,Bの個数は,どれも無限個である.では,どの無限個という大きさも同じなのだろうか?それとも,@の無限個と,Aの無限個とでは,同じように無限個と読んでいるが,その個数に違いはあるのだろうか?

単純に考えれば,@の無限個は〜始まって,正の方向への無限である.それに対して,Aの無限個はを基準にして,左右への無限である.個数としては,Aの方が@の2倍+1だけの個数があるように思える.

が,現実はそれほど簡単ではない.

「無限」とは数え切れない=数えられない,という概念である.数え切れない,数えられないものに対して,数えられるものの個数の概念を持ち込んだところで,その概念が通用するという保障もない.

だからそんなに簡単に2倍ある,とは言えないのである.このあたりの概念は難しい.それこそかなりの理論構築をしなければいけないし,並の理解力では理解し難い.

が,これだけは言っておこう.

無限にも,小さな無限と,大きな無限があるのである.こんなことを言うと,またわからなくなるかな?ただし,だからといって@の2倍がAということではない.

が,@が一番小さな無限の集合であることに間違いはない.

縁があれば,機会があれば,また無限の話しをしよう.〜終〜

Printed in Tounn.1993.
Written by Y.O^kouchi.1993.
Copyright 1987,1993 MAT Inc.
MAT is Mathematics Assist Team Corporation.