毎週水曜日定期発行
Weekly Mathematics Magazine
《数学通信》
MAT-59 1993.9.22(Wed)

★無限を見つめる.★〜Part2:漢数詞〜

無限についてもう少し考えてみよう.

君達の知っている一番大きな数は何だろう?逆に,君達の知っている一番小さな数は何だろう?

ちょっと話が無限からそれていくかもしれないが,日本では,数の位取りとして,10進法と,万進法の2種類を併用して用いている.知っているよね,10進法は.では,万進法とは?

西洋では,0が3つ増えると”,”をつけて読みやすいように,わかりやすいようにする.例えば,”12,000””2,113,500”のように.”million”(1,000,000)”thousand”(1,000)という言葉があるのはそのためである.

だが,日本では違う.

万進法とは,0が4つ増えると,位を表す単位が変わるのである.”一””十””百””千””万””十万””百万””千万”

”億””十億””百億””千億””兆””十兆””百兆””千兆”というように.

ところで,”兆”よりも大きい単位を知ってる?ついでに,1よりも小さく,限りなく0に近くなる小さい方の単位もどれくらい知っている?いい機会である.君達に紹介しておこう.そして,自分がどれくらい知っているか確認してみてほしい.

大きい方の単位

一(いち)・・・・・・・・・・・・10

十(じゅう)・・・・・・・・・・・10

百(ひゃく)・・・・・・・・・・・10

千(せん)・・・・・・・・・・・・10

万(まん)・・・・・・・・・・・・10

億(おく)・・・・・・・・・・・・10

兆(ちょう)・・・・・・・・・・・1012

京(けい)・・・・・・・・・・・・1016

垓(がい)・・・・・・・・・・・・1020

 (じょ)・・・・・・・・・・・・1024

穣(じょう)・・・・・・・・・・・1028

溝(こう)・・・・・・・・・・・・1032

澗(かん)・・・・・・・・・・・・1036

正(せい)・・・・・・・・・・・・1040

載(さい)・・・・・・・・・・・・1044

極(ごく)・・・・・・・・・・・・1048

恒河沙(ごうがしゃ)・・・・・・・1056

阿僧祇(あそうぎ)・・・・・・・・1064

那由他(なゆた)・・・・・・・・・1072

不可思議(ふかしぎ)・・・・・・・1080

無量大数(むりょうたいすう)・・・1088

小さい方の単位

分(ぶ)・・・・・・・・・・・・・10−1

厘(りん)・・・・・・・・・・・・10−2

毛(もう)・・・・・・・・・・・・10−3

糸(し)・・・・・・・・・・・・・10−4

忽(こつ)・・・・・・・・・・・・10−5

微(び)・・・・・・・・・・・・・10−6

繊(せん)・・・・・・・・・・・・10−7

沙(しゃ)・・・・・・・・・・・・10−8

塵(じん)・・・・・・・・・・・・10−9

埃(あい)・・・・・・・・・・・・10−10

渺(びょう)・・・・・・・・・・・10−11

漠(ばく)・・・・・・・・・・・・10−12

糢糊(もこ)・・・・・・・・・・・10−13

逡巡(しゅんじゅん)・・・・・・・10−14

須臾(しゅゆ)・・・・・・・・・・10−15

瞬息(しゅんそく)・・・・・・・・10−16

弾指(だんし)・・・・・・・・・・10−17

刹那(せつな)・・・・・・・・・・10−18

六徳(りっとく)・・・・・・・・・10−19

虚(きょ)・・・・・・・・・・・・10−20

空(くう)・・・・・・・・・・・・10−21

清(せい)・・・・・・・・・・・・10−22

浄(じょう)・・・・・・・・・・・10−23

さて,どれくらいまで知っていただろう?ちなみに大きな単位の”無量大数”を数字で表すと,

10000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000となる.逆に,小さい単位の”浄”を数字で表すと,0,00000000000000000000001となる.数字になるとすごく読みにくいし,わかりにくい.が,言葉であれば,そのイメージが伴うので,理解しやすいのである.

”無量大数”めちゃくちゃでかい数だろう,”浄”ほとんどないに等しいだろう,と.

現に,小さい単位の中に出てくる,”塵”は,”ちり”であるし,”虚”は”ない”である.”空”は”から”であるし,”刹那”は”わずか”である.

どれもこれも,大きい単位も,小さい単位も,もともとは仏教用語から生まれたものである.と考えれば,数学と宗教もかけ離れたものではないということが理解できるのではないだろうか.

そうそう,話しがすっかりそれてしまったが?一番大きな数を言ってごらん.君達が知っている範囲でいい.これ以上大きな数は言えない!そんな数を言ってごらん.

俺はそれよりも大きい数を言ってあげよう.誰にも同じ台詞で.

そう,前号の落語の話しに戻るのである.

確か,前号では,ほら吹き和尚が大食いほら吹き大会を開いて,挑戦者すべてに同じ台詞を言って勝っていくというところまで話したよね.

こうであったはずである.

『・・・「わしは,この間浜辺を散歩していたら,あまりに天気が良くてのどが渇いたので,ちょっとのつもりで,海の水を飲んだんじゃよ.ほんとに,ただのどを潤すつもりでな.ところが,ついつい飲み過ぎて,気がついたら海の水をすべて飲み干していたんじゃな.これはいかん!そう思い,腹の中にしまい込んだ海の水を戻しておいたんだよ.恐れ入ったかね.」が,和尚,少しもあわてずただ一言,「わしは,・・・・・」自慢のほら吹きも,その一言で肩を落とし部屋を出ていった.

その次も,その次も同じである.我こそはと,自慢のほらを披露するが,すべて和尚の一言で自分の負けを認め寺を後にするのである.和尚は誰にも同じ言葉しか言っていない.』

さて,和尚は何て言ったのであろう?

2週間あったのである.そろそろひらめいてもいいはずであろう.まだひらめかないかな?

仕方がない.教えてやるとするか.

和尚はこう言ったのである.「わしはそんなお主を食べた.」とね.

ほら吹き自慢が,考えつく限りの大食いのほらを吹く.とうてい食えるはずのないものを喰ったとほらを吹く.これ以上のものはないであろうと思える自信満々のほらを吹く.絶対負けるはずがないと意気込んでくるから,和尚に,「お主は何を喰ろうた?」と聞かれれば,ついつい自慢をしたくて先に話してしまう.ここに敗因がある.

和尚はほらを吹くのが好きであるが,悔しがる他人の姿を見るのも好きである.だからこそ,また絶対に負けるはずがないと言う切り札を持っているからこそ,ほら吹き大会を開いたのである.

ほら吹きが大食いのほらを自慢する.普通ならば,それを聞いて何と答えようと思うのだが,そのほら吹きのちょっと上をいけばいいのである.勝てればいいのである.であれば,その大食いを食べれば,和尚はその大食いよりも大食いと言うことになる.海の水を飲み干してしまった奴はすごい大食いであるが,そいつを食べた奴はもっとすごい大食いと言うことになる,という理屈である.わかるかな?

さてもう判ったよね?君達が考えられる一番大きな数を用意する.それに対して俺は,その数に1を足した数を言えばいいのである.絶対に勝てるのである.簡単な理屈である.

無限とは,終わらないということである.無限とは,一番大きいと思えるものに,ちょっとを加えればいいという考えの延長でしかない.ただ,そのちょっと加えるということが,それこそ永遠に続くのであるが・・・.

”無限”とは奥の深い概念である.次回は無限の不思議の話しをしよう.

〜続く〜

Printed in Tounn.1993.
Written by Y.O^kouchi.1993.
Copyright 1987,1993 MAT Inc.
MAT is Mathematics Assist Team Corporation.