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Weekly Mathematics Magazine
《数学通信》
MAT-69 1993.12.8(Wed)

**短期集中連載**≡Part-4≡

★手のひらの宇宙★ 〜人間は進化するか?(New Type論を論じる.)〜

そんなエゴで溢れている地球.そんなエゴに凝り固まった人類に進化の道は残されているのだろうか?

使われていない8割の脳を使えるようになれるのだろうか?もしそれが出来るようになったのならば,人類はお互いを理解し合えるのだろうか?もしそうなれるとして,それはいったいいつの事であろう?

まもなく21世紀を迎えようとしている現在,人類は宇宙へもその足跡を広げている.が,人としての本質的なものはそれこそ,何も変わっていないに等しい.そんな人類に,相互完全理解,そんな夢のような現実が訪れるのであろうか?

そう,人類が宇宙へ行けるほどの科学力を身につけても人類の本質は何一つ変わっていない事に気がつかなければいけないのだ.発達したのは科学だけである.発展したのは文明だけである.けれどどんなに科学が発達しても,どんなに文明が発展しても人類自体が進化しない以上,宇宙へ進出しても地球上の出来事をそのまま宇宙に持ち出すに過ぎないであろう.

人類の科学力が,例え人類を宇宙に送り出すようになっても,例え宇宙にスペースコロニー(宇宙ステーションを更に拡張した,いわば宇宙に浮かぶ都市といえる物.)を無数に建設し,人類を宇宙に移民させれるようになっても人類が進化しない限り,地球上の争いごとはそのまま宇宙にまで広げられるだけに過ぎない.その昔,世界中の国々が,いや先進国と呼ばれる国々が世界の覇権をかけて戦争をしていたように,やがて宇宙に進出した人類は再び宇宙の覇権をかけてコロニーごとに戦争を起こすであろう.

しっかりとイメージをして欲しい.スペースコロニーとは,人々が何百万人,何千万人単位で生活をするシリンダー状の居住空間である.北海道全部の人口を,あるいは,東京全部の人口を,そのまま宇宙に移すのである.何百万人,何千万人単位となればそれは1つの国家に等しい.

ここからの話しはちょっとSFっぽくなってくるが,かなり科学的な裏付けのある話しであるから,将来的には実現可能な話しでもあるから,しっかり想像力を働かして欲しい.

コロニーがシリンダー状をしているのはシリンダーの回転によって,そのシリンダー内に重力を発生させるためである.シリンダーの回転によって発生させられた重力が,シリンダー内に地球と同じ重力をもたらし,人類は宇宙空間の中にいながら地球と同じような環境の中で生活できるのである.ジャンボジェット機が運べる人間の数はたかだか500人である.それに比べればスペースコロニーの大きさが想像できるであろう.もちろん,現在,そんな超巨大な物を建造できるか,あるいは出来るだけの技術があったとしてもそれだけの資源が地球にあるか,そんな事を心配したりもするが人類が宇宙へ進出するという前提にたてばそんな夢物語も100年後,いや50年後には可能になっているかも知れない.

現に人類の技術力は理論的には十分スペースコロニーを建造できるだけの技術があるし,資源だって,何も地球だけに頼らなくてもいい.実際,大手の建設会社は,スペースプロジェクトと称して,月面コロニーのモデル図や,建設材料,その調達方法,建設方法までも具体的に研究開発しているのである.こう言っちゃ失礼だが,たかが建設会社がである.ゼネコン汚職で叩かれている,そんな建設会社が真剣に宇宙を見つめているのである.夢多き君達が宇宙に目を向けないなんておかしいでしょう?俺がこんな事を言うと,また子供みたいに,漫画の見すぎじゃないの?と言われるかもしれないが,仕方がない.心は未だに少年のままなのだから.そうそう,話しを元にもどそう.宇宙空間を自由に往来できるようになれば他の惑星から資源を運べばいい.地球だけでは揃わない資源を他の惑星から取り寄せればいい.発想的には安易であるが,もっとも可能性の高い方法である.現に,月には多くの資源がほぼ無尽蔵に眠っているのであるから.これを使わない手はない.それに,月の資源が使えるような時代には,ちょっと足を延ばして,アステロイドベルトにある小惑星群から大きめのものをコロニー周辺まで運んできて,資源として使うという手だって実現できるようになっているかもしれないじゃないか!夢はどんどん広がっていく.

しかし,ワクワクドキドキと広がるばかりの夢ではない.コロニー毎が1つ1つの国家になるとまさに宇宙の覇権をめぐって争いが起こり得る可能性が高くなる.考えてもごらん.スペースコロニーが出来たら移住したいと思うだろうか?まだ無理かもしれない.こんな事をいきなり言われても,スペースコロニーがどんなものかもよく解らずに質問されても選択しようがないであろうから.

俺なら,俺なら移住したいとは思わない.なぜって?地球という惑星が他の何よりも安全な場所だからだ.地球にいる限り,恒常的には”死”という物を意識しないで生きていけるから.もちろん死が訪れないという事ではなく,地球にいたって死は事故や病気の形で確実に訪れるのではある.でもスペースコロニーは,宇宙は違う.小さなミスがそのまま生命の危機に直結する.君達も俺も宇宙旅行をした経験もなければ,宇宙で生活した経験もないので確かな認識は出来ないかも知れないが,漠然とは理解できるはずである.宇宙では空気がないと生きていけないという事が.宇宙ではいつも死と背中合わせである.それはスペースコロニーでも同じである.コロニーから,もし小さなミスで酸素が,空気が抜けてしまったら,コロニー内の何百万人,何千万人という人々が死んでしまうのである.そんな事を,空気がいかに大切であるか,いかに生命を支えているかという事を,地球上にいれば感じもしない,気もつきもしない.そんな空気のありがたみを常に感じながら,そして,”死”の恐怖を無意識のうちに感じながら生きていかなければいけないのである.それが宇宙での生活,スペースコロニーでの生活である.そんなコロニーにあえて移住するであろうか?

おそらく10年後50年後100年後にはまちがいなく,人類で地球は溢れ返っている.激しい貧富の差,爆発的な人口増加,危機的な食料不足,エネルギー不足,そんな人口増加にまつわる課題が山積しているのが未来の地球である.そんな事を君達は考えた事があるだろうか?今の快楽に浸りきっているのではないかな?ちょっと考えてごらん.

君達が世界の指導者だったらどうする?増えすぎた人口,それにまつわる難問,これらを解決して人類の未来を切り開かなければならないとしたら,君達ならどんな方法を探す?

俺ならおそらく安易な宇宙移住を強制的に行うであろう.もちろんそれ以外にも方法はある.ただ単に人類の数を減らすだけであれば….もう一度同じ過ちをあえて犯す.戦争である.この方法がもっとも手っとり早い.うまくすれば人類全てを抹殺する事もできる.俺はそれが一番いいと思っている.

しかし人は自分が指導者の立場にたつと考え方が変わってくるものである.それまでは誠意の固まりであったような人が,権力を手に入れるとエゴむき出しで人が変わったようになるという話はよく聞く.所詮,人はその程度である.俺のように神であれば,ためらいもなく,最終戦争のスイッチを入れるであろうが.

が,ここはあえて,人間にレベルを落として考えてみると,俺が指導者であれば最終戦争という短絡的な愚かな行為は選択しない.確かに戦争によって人類の数を減らす事は出来るが,指導者としては減らしすぎては困る.加えて,この次起こるであろう全面戦争は,世界を破滅にしか追い込まない.そうしたら,自分の指導者としての立場が維持できなくなる.それでは困るのである.自分の指導者としての地位をしっかりと維持したいのである.そのためにも,自分が今の地位を確保できるだけの十分な人口が必要なのである.そして,それ以上に地球を核で汚したくはない.自分は緑あふれる地球で暮らしたい.こう考えることこそ,まさにエゴイスティックである.しかし,自分が指導者であればそう考える.

ではどうするか?残された解決策は人類の強制移住しかない.自分の手元にある全てに権力を集めてでもきっと行うであろう.何を基準に?これが一番難しい.しかし,指導者としては基準などどうでもいい.できる限り沢山地球上から排除してしまいたいのである.それも特に指導者に対して批判的な者は.コロニーに押し込んで反体制運動を封じ込めてしまいたい.徹底的に管理して,力で封じ込めてしまいたい.指導者に協力的の者は地球に残すし,協力した者は将来的に地球に移住できる特権も与える.そのための強制移住である.地球上に残るのは体制に従順な羊のような,家畜のような者ばかりである.宇宙に出された者は,コネも何もなく,ただ右往左往している愚民ばかりである.もちろん反体制的な者を集めて移住させたりはしない.バラバラにして,力を分散させて移住させるであろう.是非一度俺を指導者に選んでみてごらん?そして,絶対的な権力を与えてみてごらん?君達は宇宙へと,コロニーへと間違いなく追い出されてしまうであろう.ハッハッハッ.

Printed in Tounn.1993.
Written by Y.O^kouchi.1993.
Copyright 1987,1993 MAT Inc.
MAT is Mathematics Assist Team Corporation.