■第3章■ 認知教育学の実証的モデル「自律的意見交換」
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広域学習環境を構築する手始めに、全国の高校生を対象としたメーリングリストを立ち上げた。これは100校プロジェクトにおける共同企画の一つ『高等学校における生徒の自律的意見交換に関する実践研究』として運用されたものである。本企画は、メーリングリストによる仮想的空間での交流に加え、ネットワーク・リーダーズ・キャンプという実際に会って交流するという二本立てで行われた。平成7年10月から平成8年3月まで実施されたこの企画に実行委員として参加し、報告書をまとめた立場から、ここにその概要を述べる。
第1節 ねらい
将来的にインターネットが、広域ネットワークにおける学習支援環境を実現するとしても、その根底において必要とされるのは人間同志の信頼関係である。そういった人間関係をどう構築していくかが、これからの情報化社会に必要とされる教育であろう。この観点に立って本企画では、それぞれの高等学校でのインターネット活用の実践を基盤とし、それらが全国的に交流していくことでどの様なコミュニケーションが展開されるかに焦点を当てる。
(1)インターネットを補助的な手段として全国の高校生がコミュニケーションを持とうとするときに、生徒たちの内面や行動にどんな変化が生じて来るのだろうか。
(2)高校生という自律性が高まる時期にあって、メーリングリストの運営などに係わり、生徒たちがどの様にして自主的・自律的な運営を行っていくのだろうか。
(3)各学校においても、学年制度による従来の横割りの交流から、新たに人間性を主軸においた人間関係の形成が期待できるかもしれない。
(4)周囲の教師などからの支援が必要であるとしたら、どの様な場面において、どの程度の働きかけが適当であるのか。
以上の視点を持ち、インターネットが「インターラクティブなコミュニケーションを支援する環境」であるという立場から、その総合的な活用方法を探り実践し、効果を検証する。
第2節 方針
本企画は段階的に実施することで、実践におけるねらいの拡散を防ぐと同時に、生徒のコミュニケーションが自律的に無理なく発展を遂げるよう考慮する。また、発展の進行状況によってはその運営を柔軟に考えることとし、生徒を無理に方向付けるような行為は厳重に慎むように留意する。
交流の対象校をしぼり、情報交換の主旨の徹底や方法手段の定着を図る。参加校については、研究グループが運営にあたっての細やかな眼が行き届くように配慮する。また、特定地域に集中しないよう全国的な散らばり具合を考慮する。普通科・工業科・商業科などの校種も重要な配慮事項である。
対象校の生徒たちがインターネットにおけるコミュニケーションに慣れ、コミュニティとしてある程度成熟してきた段階で、自由な参加へと展開する。ここで期待されるのは、コミュニケーションがいままで生徒が経験したことのない広い範囲にまで外に向かって拡張して行くことであり、逆に問題意識が個人のものとしてしっかり内側に向かって自覚され始めることである。
第3節 実施計画の概要
1 ネットワーク上での交流
(a)情報交換の手段
メーリングリスト(以下MLと略す)を用いた電子メールの利用を基本とする。手紙や電話・ファックス・ポケットベルなどに次ぐメディアとしての電子メールは、生徒たちにどの様に意識されるのであろうか。電子メールの使い方はもちろんであるが、コミュニケーションの道具となったときの利便性や危険性についても、充分に体得させる必要がある。
必要に応じて、インターネット上のその他の手段(CU-SeeMeなど)や、非電子ネットワーク的手段(電話・オフラインミーティングなど)を活用することも考慮する。
(b)情報交換の運用体制
対象校の教員と生徒から、それぞれコア(核)になるメンバーを選出しMLを作る(コア教師MLとコア生徒ML)。一般の教員と生徒に対しても、それぞれML(一般教師MLと一般生徒ML)を作成し、互いの働きかけによってスムーズな全体の運営を目指す。ここでは、一般のMLはコアのMLを包含した形となっている。
本企画の具体的運用内容をコア教師が検討し、一般教師やコア生徒へ
の周知を図る。一般教師は各自の学校において一般生徒を援助し、コア生徒はMLにおいて一般生徒が活動しやすいような交通整理をして行くのである。本研究の主題は、この一般生徒のMLがどのように運営されて行くかにあるが、これは原則としてコア生徒によって行われるものであり、このことで自律的な情報交換の促進が図られる。
(c)情報交換の運用方針
生徒により自主的に考えられた様々なテーマについてのプレゼンテーション・交流・討議・共同学習などが想定される。MLの交流の中からこれらのテーマや具体的な行動が出てくることが期待されるが、あまりにもその動きが見られない場合には、教師の側からの援助が必要となろう。その場合の教員の姿勢は、基本的に生徒のコミュニケーションに直接口を出すことはせず、コア生徒へのヒント・アドバイス程度にとどめる。
生徒間のコミュニケーションは、原則としてML上で行うもの(個人間のコミュニケーションを禁止するものではない。)とし、教師は常に状況を把握できるように留意する。
2 直接会っての交流
仮想コミュニティとしてのMLでの交流ばかりではなく、現実に顔と顔を付き合わした形でのコミュニケーションは生徒にどの様な影響を与えるであろうか。それらを別のものとしての論じるのではなく、互いの相互作用としてどの様なものがあり、相対的にコミュニケーションの場にどんな効果を及ぼすのであろうか。これらのねらいを達成すべく、非電子ネットワーク的手段としてネットワーク・リーダーズ・キャンプを開催する。
内容としては、最新情報機器の見学や実習、インターネットの先端で活躍される有識者の講義、生徒達による討論や提言などが考えられる。雑誌やテレビなどで見るだけではなく、実際にもの触れたり、現場に立ったり、人間と会ったりすることがどんな感動を与えるのであろうか。
第4節 成果と課題
将来的にインターネットが、広域ネットワークにおける学習支援環境を実現するとしても、その根底において必要とされるのは人間同志の信頼関係である。そういった人間関係をどう構築していくかが、これからの情報化社会に必要とされる教育であろう。この観点に立って本企画では、それぞれの高等学校でのインターネット活用の実践を基盤とし、それらが全国的に交流していくことでどの様なコミュニケーションが展開されるかに焦点を当ててきた。
本企画の「ねらい」でも述べているように、インターネットが「インターラクティブなコミュニケーションを支援する環境」であるという立場から、その総合的な活用方法を探り実践し、効果を検証する。ここではそれらの視点から成果と課題をまとめる。
1 インターネットを補助的な手段として全国の高校生がコミュニケーションを持とうとするときに、生徒たちの内面や行動にどんな変化が生じて来るのだろうか。
限りない情報へのアクセスや、全く自由な個別での情報のやり取りは、学校や社会においての新たな問題を生じさせる。ノートパソコンの学校への持ち込み。ネットワーク上での政治的、あるいはモラルの問題としての発言の扱い方。ネットワーク管理上のプライバシーの問題など。しかしこれらは問題というよりも、新しいコミュニケーションの創造における、避けて通ることの出来ない検討事項であるとも言える。
(1)メール(メーリングリスト)での生徒のコミュニケーションについて
電子メールが持つ特性と従来の手紙や電話が持つ特性とは、明らかに異なったものであることを、生徒達は実感したのではないだろうか。メーリングリストに参加する動機付けとしては、初期の段階はやはり自分宛のメールがたくさん来ていることに尽きるようだ。来たものには返事を書かなくてはならない、というコミュニケーションの第1歩は、高校生としては持ち合わせているように思われる。
学校内のメーリングリストに、不特定多数のメンバーが読むというのにもかかわらず、普段顔を付き合わせている時の個人的な関係を持ち込む生徒がいる。不特定のメンバーの中での関係を認識できないのだろうか。それとも、不特定の中に個人的な関係を持ち込むことで注目されようとしているのかは分からない。そのような生徒は、今度は全国の生徒とのメーリングリストでも同じふるまいをする。個別に注意をすると治まるので、一過性のものかもしれない。
メーリングリストそのものに慣れていない様子も見受けられた。どうしてもそれぞれが考えていることを発言してしまい、一つの話題に対してみんなで意見を出し合い、焦点を絞っていくという使い方はまだまだのようだ。話題は収束するどころか発散の様子さえ呈し始める。自分の意見をそれぞれが持つのに精一杯で、相手の考えを咀嚼して対する考えを述べるような、対話的な討論なりがなかなか出来ないようだ。また、メーリングリストを友達募集の掲示板と勘違いしており、すぐ個人的なメールのやり取りに走ってしまう状況がしばしば見られた。最初の指導が十分なものではなかったのかもしれないが、外に向かって行動や意識を広げていこうとするよりは、個人的な世界に収束していこうという現代の生徒の行動様式の表れなのかもしれない。
(2)ビデオ会議を使った生徒のコミュニケーションについて
現実のコミュニケーションの補助手段としてのインターネットであるが、インターネットの活用が頭にあるとどうしても仮想的なコミュニケーションに偏りがちになる。Face
to Faceのコミュニケーションと、Virtualなコミュニケーションはどの様な関係にあるべきであろうか。
本企画の初期段階は、北海道旭川凌雲高等学校・川崎市立川崎総合科学高等学校・京都府立工業高等学校の3校によるビデオ会議(CU-SeeMe)であった。始めての体験というインパクトもあったが、それにもまして、それ以後の3校における交流に対して大きな影響力があったものと考えられる。やはり顔見知りになるというのは大切なことで、明らかにコミュニケーションの質が濃くなる。後のメーリングリストでの交流を見ても、明らかにその効果を見ることが出来る。実際にはさらに後のネットワーク・リーダーズ・キャンプで顔を合わせたわけであるが、そこでは再会す
るという気持ちを強く持ったようだ。
ビデオ会議による交流は、現在のインターネットでは力が足りないことは明らかである。無理をして画面を見ながら「交流」という柱にしがみつくよりも、あっさりと「顔が見られる」程度で納得し、(近い将来の基盤整備に希望を持ちながらも)他の手段でコミュニケーションを充実させることを考えた方が現実的であるかもしれない。こう考えるとビデオ会議は改まって考えるよりも、トラフィックの件でお叱りを受けるかもしれないが、「ちょっとやってみようか」という日常性を帯びてきてもいいのではないだろうか。
2 高校生という自律性が高まる時期にあって、メーリングリストの運営などに係わり、生徒たちがどの様にして自主的・自律的な運営を行っていくのだろうか。
「枠組みと道具建てさえ与えれば、生徒達は彼らなりに何かを始める」というのを仮説として持っていたのだが、それ程簡単なことではなかったようである。この初期状態のままでは、「何か行動する」ことさえも出来ず、「何を考えていいのか」さえ分からない状態でなかったかと思う。方向性を与えることと、最初に走り出すためのきっかけを与えることまでは是非必要であろう。
本企画の立ち上げが大きくずれ込んだため、メーリングリストでのやり取りや、コアになる生徒の意識が不十分なままにネットワーク・リーダーズ・キャンプを開催するに至った。またメーリングリストの立ち上げが年末年始や学年末の考査などに重なり、各校が順次参加するなど足並みが揃わない状況もあった。
この企画の主旨に対する意識の差を吸収するためには、企画のWWWを立ち上げておいて、参加する教師や生徒は必ず眼を通して理解しておくようにするなどの徹底が必要であるとの指摘もあった。WWW上でそれまでのメールを掲載しておくということも検討されたが、内容がプライベートであるものが多いため見送られた経緯もある。代案として、コアの生徒のメーリングリストの内容の公開も考えられたが、議論がなかなか煮詰まらず、ネットワーク・リーダーズ・キャンプまでには間に合わなかった。また電子掲示板の活用もコア生徒に提案してはみたが、その有効的な方
法の模索は時間的な制約から、やはり厳しいものがあった。
コアの生徒も含めて、一般生徒のメーリングリストでは話題の方向付けをしてくれそうな生徒も出現し始めている。メーリングリストに対する慣れもあるのだろうが、何とか意味のあるものに自分たちがしていかなくてはならない、という自覚の表れであると考えられる。ネットワーク・リーダーズ・キャンプに参加してからのコア生徒の変化は顕著であり、進んで一般生徒のメーリングリストに建設的な話題を投げかけている。また3年生は、自分たちが高校を卒業してからの立場を考え、本企画のサポートに回ることを自発的に考え始めている。インターネットが本企画のように全国的な交流を可能にしているのであるが、ネットワーク・リーダーズ・キャンプにおける討論参観者のような応援団が、いろいろな世代に渡って広がろうとしていることも現実となろうとしている。閉じていた学校から開かれた学校へと学校教育が変貌を遂げたときに、教育が求める生徒の自律性というものもまた違ったものに変質しているかもしれない。
3 各学校においても、学年制度による従来の横割りの交流から、新たに人間性を主軸においた人間関係の形成が期待できるかもしれない。
後からメールのやり取りに参加してくる生徒達に対して、古参の生徒達はそれなりに面倒を見てあげようという気持ちを持ち始めている。ソフトウェアの使い方や新しい技術についての講習会などを求める姿勢も現れ始めた。自分たちで主催しようという気持ちが芽生えてくれば素晴らしいことである。学年間だけではなく、いろいろな場面においても新しい関係が生まれそうである。
教師と生徒との関係は、ホームルーム担任として、あるいは教科担当、課外活動顧問などとしてのものがほとんどであり、学校の規律の上に立ったものにとどまっていることが多い。それに加えて、教師と生徒とのメール交換も一部には見られるようになって来ている。両者の関係が好ましいものだからこそ始まったのかは分からないが、さらに進展した関係になっていくことには間違いがないものと思われる。学校教育での新しいコミュニケーションの形ではないだろうか。教室内で孤立しがちであった生徒が電子メールを通して教師と打ち解けあい、生徒の知られざる内面を見ることが出来たという教師を身近に知っている。
新しい人間関係の形成は学校内にとどまらない。メーリングリストでの交流が進むと、生徒の団結の意識から自発的にWWW
を立ち上げたいとの声が上がってきた。学校内での仲間意識から、全国的な規模での共有感覚というものが生まれてくるのも時間の問題かもしれない。また先に述べたコア生徒の卒業後への姿勢など、いろいろな枠組みを越えたところで人間関係を求め始めている。ネットワーク・リーダーズ・キャンプの参加生徒の中で、後藤先生の講演を聴いた後の感想の中で、「そうか、ポインタの思想か。とりあえず、人脈を作ろう(^^;」と書いていたことが印象に残っている。
4 周囲の教師などからの支援が必要であるとしたら、どの様な場面において、どの程度の働きかけが適当であるのか。
メーリングリストでのやり取りの中で、誤りの揚げ足取りや、不幸の手紙めいた悪質な冗談なども、ごく一部ではあるが見受けられた。このような場合の生徒の対応であるが、精神的に傷ついてインターネット・コミュニティから離れていく者もあるかもしれない。こんな時には周囲にカウンセリングするところがあり、適切な助言を与えてやれることが望ましい。本事例の場合にはサポートのために教員がそばにいたので、即時に適切な対応が可能であった。
学校は時代の流れに従って、コンピューティングに対して高機能のマシンを期待している。高機能であれば何かが出来ると信じているのである。現実には操作方法の未熟さや、コンピュータやマルチメディアと教育との関係についてのビジョンの不足から、なかなか前に踏み出せないままじたばたしている。
教科指導等に直接コンピュータを使おうという視点も重要ではあるが、もっと高く広い視点から教育への活用を考えることも必要である。そこでネットワークでの活用が重要であるということであれば、コンピューティング環境へ期待するものも明らかに変化してくる。何を求めているかにもよるが、インターネットによるコミュニケーションにおいては、高機能のマシンが必要なのではなく、高帯域で安価な専用回線や身近に並ぶ端末の数などが重要な要素であることを銘記しておこう。現場からのこうした声は、直接生徒への支援にはならないまでも、今後に向けての大きな力となろう。
テクノロジーは、効率性だけではなく、柔軟性をも提供するものである。テクノロジーが教育に対してもっとも貢献することは、コラボレーション(共同作業)を可能にすることである。テクノロジーのおかげで生徒が孤独になるのではなく、例えばコンピュータによるコミュニケーション・ネットワークによって共同学習が可能になり、生徒や教師の関係がある意味で民主的なものに変質していくであろう。
5 まとめ
今の私達は、端末の数や回線の料金など、インターネットを活用するに当たっての環境整備のことで頭が一杯の節がある。こういった問題はいつの世の中でも、新しい技術が一般的になるまでにはいつもつきまとうものである。そこで、このような問題はいつしか時間が解決することと割り切って考えてみることにしよう。つまり、私達の回りにはインターネット端末が充分な数だけ自然に置かれ、十分に太い回線もただ同然になって引かれている環境を想像するのである。近い将来であって欲しいこのイメージは、私達教師の新しい教育環境への想像力をかき立て、豊かなビジョンを創出させはしないだろうか。今、教師の真の力量が問われている。
私達は生徒に生きる夢を与える仕事をしていたはずではないだろうか。環境に問題ありと提起して現実を変えていく努力も必要である。加えて、今やれることを生徒と共に考えて行きたい。
第5節 ネットワーク・リーダーズ・キャンプ
参加した教師や生徒の、企画の主旨に対する理解の相違については先にも述べた。ネットワーク・リーダーズ・キャンプについても同様で、もしかしたら誰もがこのキャンプの意味を、本当には理解できていなかったのかもしれない。
キャンプの日程を消化するに従って、参加者は互いに打ち解け、本来のコミュニケーションを取り始めた。生徒については公式日程はもちろんのこと、プライベートな交流も相当に意味深いものであったに違いない。惜しまれるのは引率した教師の方で、生徒ののびのびした活躍に驚いているうちに自分たちの交流が出来ていなかったように思われる。これは多分に日程的なものもあり、今後ゆとりのある日程と準備が求められる。今回は幸いにも、応援団として大変多くの方々にご協力やご援助を頂くことが出来た。生徒や教師と共々、じっくりと交流の時間を持つことがあっても良かったのではないかと残念でならない。
生徒の「活動状況の報告」では主旨を徹底できていなかったせいもあり、プレゼンテーションの方法にばらつきがあった。せっかくの情報基盤センターでの発表でもあるのだから、プレゼン機器を有効に活用した経験を生徒に与えることが出来ても良かったのではないかと考えている。内容についても、事前に各校が打ち合わせを綿密に行うことで、少なくても今後に向けての取り組みの方針めいたものが浮かび上がってくるのではないだろうか。
教師間の意識においても大きなインパクトがあった。本企画の実現に向けては、全国に散らばる教師が一つのチームとして協調作業を行った。また、参加した者も全国各地の生徒であり、これまでの全国的な行事や会議などでは、他校の生徒を直接他の学校の教師が指導することはほとんどあり得なかった。つまり本企画は、学校の枠組みが完全に取り去られた、全国レベルの開かれた環境で行われたのである。新しい人間関係の構築については先の項目で述べてはいるが、ここで改めて述べておきたい。今後のあり方として、地区ごとに同じようなネットワーク・リダーズ・キャンプを開催し、もっと全国規模でMLの運用意識を高めさせていく必要があるという提言である。また、卒業生をOBとして継続してプロジェクトに参加できる方向での検討を求める声もあった。さらにせっかく世界共通基盤としてのインターネットであるので、外国の学生ともこのようなキャンプを企画してみるのも面白いであろう。
第6節 広域学習環境への展開
「自律的意見交換」のモデルは、全国の高校生が互いにコミュニケーションを持つ基盤としての有効性を実証した。また、仮想的なネットワークでの交流と、現実的に会って交流を持つということについても、相互に連関があることが明らかになった。これを基盤として次ぎに構築されるモデルは、広域学習環境の実現である。
1 ねらい
(1)自由な意見交換の場を設けることで、生徒の自主性や自律性を促す。
(2)各学校でのインターネット活用を基盤としながら、学校の枠を取り外した環境での交流を進め、生徒や教師そして学校間における新しい関係を構築する。
(3)このような広域ネットワークにおけるコミュニケーションの、学習支援環境としての可能性を実践的に研究する。
(4)現在の導入段階を終えたとき、インターネットは単なる道具として、また環境として、日常にとけ込んだ自然な使い方がされなければならない。自律的意見交換の場は、まさに生徒自らが学ぶ場として教育的利用の基盤となるものである。
2 内容
高校生の広域ネットワークにおけるコミュニケーションが、自律的に段階的発展を遂げるように援助し、最終的には学習支援環境として機能するように、その枠組みの構築を行っていく。基本的には、メーリングリストという仮想的な環境でのコミュニケーションを中心とする。適宜ビデオ会議などのシステムの利用も行い、仮想的環境と現実の間のギャップを埋めるべく努力する。昨年度の実践の流れを受けて、生徒の興味関心に合わせたメーリングリストの細分化を計り、その活性化を促す。また、生徒の「自律性の種蒔き」に関しては、教師の適当な支援を要することも明らかになってきている。以上を実践して行くには、主体としての生徒、支援者としての教師の双方に、メーリングリストの運営者として核となるコア・メンバーが必要である。つまり、生徒会執行部ならびに生徒会指導部などという現実の学校組織の枠組みを流用し、抵抗なく活動していけるように配慮する。
仮想的なコミュニケーションが、現実の世界でのコミュニケーションにどんな影響を及ぼすかも、この研究の興味ある柱の一つである。このことを検討するために、ネットワーク・リーダーズ・キャンプを開催する。生徒や教師が実際に顔を合わせて、先進施設の見学や有識者との懇談、ネットワークやコミュニケーションに関しての検討や議論を行い、幅広い見識を身に付けようとするものである。
メーリングリストの活性化には、メーリングリストが議論や共同作業の場であるという理解も必要であるし、自ら考えそれを公の場にさらして検討を加えて行くという、意志決定への態度の育成も求められている。そこに時間を要することにはなろうが、次の段階であるメーリングリストの細分化こそが、学習支援環境としての成否に関わるものである。生徒の興味関心を上手に取り込む形で、どう環境を構築するかが大きなテーマである。
3 活動場面(どの様な指導計画の中で活用するのか、例を記述)
(1)登校後のひとときや休み時間、放課後などの自由時間での自発的活動。
(2)授業において、コミュニケーションやリテラシーの学習としての活動。
(3)学習課題の解決手段としての活動。
(4)その他
4 日程計画
【段階1】
(1)昨年度の交流実績、交流の構造などを示したWebを立ち上げ、新規の生徒や教師が交流に参入しやすいように便宜を図る。また掲示板システムなども構築し、メーリングリストだけでなく、交流の幅を持てるようにする。
(2)昨年度からの参加校が継続して交流しているが、各校の事情から夏休み明けになって生徒が参加可能になる場合がある。よって9月から、基本的枠組みを構築するため、一般生徒向けメーリングリストの正式運用を開始する。
(3)同時に、各校から2名前後の意欲ある生徒を推薦してもらい、コア生徒のメーリングリストを立ちあげる。一般生徒のメーリングリストの細分化や、交流の企画等について検討を行う。前年度の卒業生についても、アドバイザーとしての協力を拒まない。
【段階2】
コア生徒は生徒の立場から、教師は可能な範囲で学習の見地からテーマを提案し、一般生徒向けメーリングリストを細分化し活性化を図る。この場合、コア生徒や教師が細分化されたメーリングリストの担当を分担し、運営をしていく。多くの発言を引き出すと共に、その内容の深まりを期待する。
「備考」
(1)生徒から提案されるテーマに偏りが出るのではないか。例えば音楽関係。
(2)教師が提案するテーマに、一般生徒が参加しないのではないか。それなりのテーマを我々も考える必要がある。
(3)長続きしないテーマもあるだろうが、メーリングリストの存続を引き延ばすようなことはしない。逆に、時代の流れに乗った、臨機応変なバブル的対応が望まれる。
(4)目的を持った細分化されたメーリングリストでは、「外部ボランティア」などを取り入れることも含めて、今年度はこの自律的意見交換を『物理的にも精神的にも開かれた学習環境』という捉え方で進めて行きたい。
(5)「自律の種を蒔く」という意味で、昨年度は控えていた教師の個別的支援を積極的に進める。
【段階3】
細分化されたメーリングリストの活動や、「自律的意見交換」としての枠組みが安定した段階で、全国の高等学校にアナウンスして、参加を呼びかける。
「備考」
(1)全国に呼びかける段階で、学校単位に呼びかけるのか、それとも高校生個人での参加をも認めるのかという判断。
(2)ドッと参入者があったときにの、物理的・精神的混乱はないのか。
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