- はじめに
3次元空間における図形感覚というのは,かなり難しいものがあります。現在は,既に小学校高学年から図形の展開や切断などが学習され,中学校では立体図形の計量なども学習します。これらの内容は生徒にとっては興味深く学習できる反面,理解度が極端に低くなる傾向があるようです。
高校では数学Bで空間ベクトルを学習しますが,やはり空間的なイメージがつかめない生徒が多いようです。3次元空間において,次の点はどこですか?この点のxy平面に対する対称点はどこですか?といった初歩的な問題にさえ答えられない生徒も多くなってきています。そこで,空間図形の学習における最初の導入部分での,“空間座標のとり方”について実践してみようと思います。
- 実践の目的
- 空間座標の取り方を,実際にコンピュータを用いて自分で図形を作成することにより,理解することができるようになる。
- 作成した空間座標を様々な角度から観察することにより,空間的なイメージを培うことができるようになる。
- 実践の内容
- 概要
生徒に課題として,面が多角形でできているある立体図形を与え,多角形の頂点を自分で考えた座標をつかって作成し,同じ立体図形をコンピュータで再現させていく。
使用するソフトは「LiveGraphics3D」(by Martin Kraus)。
- 主な流れ
@空間における座標の取り方の説明
A立体図形を作成する面について説明
Bコンピュータを用いての作成の仕方の説明
C作成する課題の説明
D自分で作成(実習)
E解答例の提示
F課題提出
- 使用ソフト「LiveGraphics3D」(by Martin Kraus)の利点
・著作権フリーのため,すべての生徒が使用可
・ブラウザ上で使用できる
・面の作成が容易
・回転,拡大・縮小,ステレオグラフィックなど様々なインターフェイスを備えている
・色彩的にも鮮やか
- 資料
・空間における図形の作成の説明
・自分で作ってみよう
・提出用課題プリント
・提出用課題プリント〜解答例
・学習指導案
- 実践の感想
- 時間配分について
2時間を当てたのですが,1時間目の1問目で悪戦苦闘している生徒もいて,空間座標がいかにとりにくいかを実感させられました。
- 座標系について
座標系のとりかたが教科書と違う点が,一番の難点だと言えます。基本的にはどう座標系を取ろうが関係ないわけですが,それを理解させるのが案外難しいと言えます。
- 操作性について
- 手軽な操作性
「LiveGraphics3D」というほとんど使用されないようなソフトを選んだわけですが,ブラウザ上で操作できるという点で手軽であり,慣れれば操作も案外こなしていたようです。今回はできる限り,ソフトの操作は少なくするという方針でおこなったのが良かったかもしれません。
- 不必要な部分の書き換え
おもわず不必要な部分を書き換えてしまったりした場合には修復に時間がかかったようです。
- ソースを閉じないで再度開く
「ソース表示」を開いて上書き保存したあと,閉じないでまた次の「ソース表示」を行った場合にきちんと「再表示」されないことがありました。 - Javaの立ち上がりが遅い
最初にブラウザでHTMLファイルを立ち上げたときに,Javaアプレットの立ち上がりがかなり遅くストレスがたまる状態でした。2時間目は教師側で,先に立ち上げておきました。
- ソフトの特徴
- 動きがある
やはり静止画と違い,動きがあることにより色々な角度から立体図形を眺められるという点で,空間における座標感覚を養うには効果があるといえます。特にマウスの操作で簡単に回転や拡大・縮小ができる点はインパクトが大きいようでした。
- 部品分解が有効
LiveGraphics3Dでは部品分解ができるため,自分の作った面がおかしな場合どこがおかしいかは分解することによって確かめられる点が良かった。分解することにより平面間の位置関係など(平行・垂直)もイメージできます。
- パラメータだけを入力を可能にする事
今回はソースファイルを手直しするという,原始的な方法でした。JavaScriptでパラメータのみを入力してシミュレーションさせる,という方法が最も効果的であると言えます。今後の課題として考えてみようと思います。
- おわりに
今回の実践は空間における座標感覚をいかに身につけるか,という目的で行いましたが,当然こんな1時間の中だけで身につくものではありません。ただ,今後の授業の流れの中で空間図形のイメージが少しでもつかめれればと思い実践してみました。
岩見沢緑陵高校の加藤先生がレポート「折り紙と数学」の中で,空間座標の導入時に次のような問題をよく使ってきたが最近では全く描けない生徒が多くなっている,と述べています。
「2点A(3,4,1),B(1,6,8)を結び,この直線を対角線とする直方体を図示せよ。」
加藤先生に折り紙の講習を受けた際に,非常に感動したのを覚えています。それは実際に手を使って空間的な感覚を体験できたからでしょう。
空間座標の指導は,板書だけではどうしても限界があります。折り紙ほど効果的ではありませんが,こうしたフリーのソフトを使うことにより,少しでも空間感覚を身につけることができればと思います。
- 関連ページ