教材「ハノイの塔」を用いた授業実践

札幌稲北高等学校 早苗 雅史

  1. はじめに

     小樽桜陽高校の岡部一良先生の実践記録 『高校での「わかる」授業の取り組み−数列の導入教具としての「ハノイの塔(ディスクピラミッド)」を用いた試み−』は,数列の漸化式を導入する上で大変良い教材であるといえる。
     岡部先生はレポートの中で偏差値教育の無味乾燥さを嘆くと同時に,数学に対する新鮮なイメージ・興味・関心を持たせることの重要性を訴えている。特に文中での

    単線の教材の指導方法ではなく,複線で考え,様々なバイパスを見出していって,子供達の興味,関心の持てる数学の教材づくりをしなければいけないと考える
    という一文は,我々がいつも心がけなければならないことであろう。「できるようになるための教育」からの脱却が求められていると言える。

     今回の実践は岡部先生の実践記録を参考に「教具」+「マンガを取り入れたプリント」(+「ネット上での解決編」)という新たな“バイパス”作りを狙いとしたものである。


  2. 実践の目的


  3. 実践の内容

    1. 概要

       教具「ハノイの塔」を実際に実習させることにより,数列の並びの規則性を見つけ出し帰納的な考え方を身に付ける。
       「ハノイの塔」のルール説明において,マンガを用いたプリントを使用したり,用意した丸い紙ディスクを用いて,実際に作業することによって数学に対する興味・関心を喚起する。

    2. 主な流れ

      @生徒用の紙ディスク・提出用プリント・「気ままに数学」の配布,学習内容の説明
      Aプリント「気ままに数学」をもとにルールの説明
      B2枚,3枚,1枚の提示用ディスクをもとに生徒と一緒に動かしてみる
      C4枚以上のときの実習の指示と提出用プリントの説明
      D自分で動かしてみる(実習),提出用プリントへの記入
      E4回,5回の場合の回数についての解答
      F結果から規則性を考える
      G規則性をもとに漸化式,帰納的定義について説明
      H問題練習
      I「気ままに数学」解答編の紹介


    3. 用意する教材

      ・プリント「マスオ博士の気ままに数学 〜ハノイの塔の秘密を探れ(問題編)」
      ・生徒作業用の紙ディスク5枚1組40セット
      ・教師説明用の大きなディスク4枚1組
      ・生徒提出用プリント

      提示用の手作りハノイの塔

      生徒の作業用紙ディスク

      プリント「気ままに数学 〜ハノイの塔の秘密を探れ(問題編)」 

    4. 工夫した点

      ・提示用のディスクは大きめに作成
      ・提示するときには棒の変わりに位置が指定できるようにA,B,Cの張り紙を使用
      ・生徒用の5枚のディスクには,表,裏を交互に用いるように使用する面に1から5までの数字をふる
      ・配布プリントには生徒が陥りそうな様子をさりげなく再現しておく
       (もう一度読むと事情が良くわかる)
      ・プリントは解決編のみを配布し,興味のある生徒にはネット上で解決編を公開していることを紹介

    5. 資料

      マスオ博士の気ままに数学 〜ハノイの塔の秘密を探れ! の巻
      提出用課題プリント
      学習指導案


  4. 実践の感想


  5. おわりに

     昨今マンガを用いてわかりやすく説明する本が多くなってきている。数学では特に埼玉大学の岡部恒治先生の「マンガ微積分入門」(BLUE BACKS)が,その先駆的役割を担ったといえるのではないだろうか。岡部恒治先生はその著書の巻頭で「数学が難しくて役に立たない」と言う批判に対して,次の様に述べている。

    その科目が「難しい,面白くない,役に立たない」などといった議論は「どのような教材を用いてどのように教えるか」という具体的な内容と,その改善策を検討した上ですべきです。

     私は授業の中ではあまり証明などはやらない。岡部恒治先生のいうところの“大ざっぱ論理”が私にもあっているようである。今回のこの教具とマンガを結びつけた実践は,岡部先生の「どのような教材を用いてどのように教えるか」という点を具体的に実践したものである。
     「気ままに数学」はネット上で閲覧することができる。問題編と解決編とに分けたのは,解決編をネット上で見ることができるようにしたかったからである。数学通信もどきの「数学玉手箱」においても興味ある生徒に対してネット上で学習できるようにしたのと同じ手法と言える。一斉学習では補いきれない部分を,自分の持つ興味・関心で補っていく。そのためのコンテンツ作りの一つであると考える。決して押し付けではなく,“ネット”を通して自然な形で養っていくようにするのである。
     教具+マンガ+ネット。これからの新たな試みであると考える。


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