2.数学とインターネット
2_1 数学の一斉指導には不向きなネット
インターネットは"個人"での学習にとっては非常に大きな威力を発揮しますが,"一斉学習"という枠の中ではその特徴を生かしづらいのではないかと考えられます。その理由としては,
- ネットの持つ「地域性不依存」「時間的不依存」「人的不依存」という特性に適応しない
- 「数学」の一斉学習の中では「調べ学習」的な要素は適応しづらい
- ネットワーク上での数学教材に関するデータベースが整備されていない
- シミュレーション型で「発見学習」的に用いることができるJavaやVRMLに関する教材が少ない
- 生徒が全員で活用するためには,機材の整備や速さ・費用等を含めた環境面で問題がある
など,様々な点が考えられます。
始めにインターネットありきでは本質が見えてこないといえます。あくまでも"主役"は数学であって,コンピュータやインターネットは道具でしかありえないのですから。
2_2 ではネットと数学との関わりは?
それでは,数学教育へのインターネットの活用法にはどんなものがあるのでしょうか。考えられる点を挙げてみます。
- 数学教育の素材(教材・指導案・実践記録など)の蓄積
- インターネット上に散らばる,数学に利用できる多様な素材の発見
- インターネット上の数学教育の素材を利用した教育実践
- VRMLやJavaなど,新しいインターネットの技術を使った教材の試作
- 数学教育におけるインターネットの可能性を探る議論
数学に関する様々なトピックスや実践記録などを蓄積,取得,実践し,そしてそれを検証することが重要でしょう。そうした"素材"にまず目をむけることが大事であり,数学教育にどのようにこれから生かしていくべきかを探ることから始める必要があります。
2_3 指導者側における活用
教員の側にたった場合の活用について考えてみましょう。ネット上では様々な教材や実践記録などを享受できると共に,互いの実践を比較したり検証したりすることが可能です。ネット上における様々な題材による教材研究,メールをを通した情報交換など教師にとっての活用度はかなり高いといえます。アンケート結果などでは,インターネットを導入してみての一番のメリットは「先生たちの情報収集への貢献」をあげているところが多いよでうす。「ネット上で得た情報は人を作る」。インターネットの活用の第一歩は,教師自身の研修から始まると考えられます。
更にネットを通した教育を考える場合に特に重要視したいのは,あるテーマを基に研究が深まっていったり,ある実践記録を他校でも工夫して実践しそれが報告されるなど,これまでの限られた地域だけのものからより広域で多くの人達が参加できるような実践です。つまり「数学的なコミュニケーション」を重視すると同時に,「教師のネットワーク」の中での議論を基に新しい授業を工夫する,といったことも可能なのです。
2_4 学習者側に立った活用
次に学習者の側に立った観点で考えてみましょう。学習者にとっても,WWWを通した情報収集,ネット上でのデータベースの利用によって,自分にとって興味・関心のある内容を深めたり,自己学習力,問題解決能力,情報活用能力の育成が図られることなど可能性は非常に大きいといえます。生徒が自分の問題・関心のある場面を広げながら学習し,自分のペースで進めていく,またはフィードバックする。そうしたことをネットは可能にしてくれるのです。
昨今,情報化や社会の変化に伴い数学の必要性が増してきているにも関わらず,生徒たちの数学離れが確実に進んできています。その原因の一つとして,これだけ世の中のマルチメディア化が進んでいるにも関わらず,学校の一斉授業の中ではそうした現実に対応しきれていない側面があるといえます。生徒の実態に迎合しなければいけない,などということは決してありません。しかし,生徒の持つ興味・関心が多様化している現在,何らかの方法でそれらに対応していく必要もあるのではないでしょうか。一斉授業の中での学習はもちろん大事です。しかし,その中では補いきれない「数学に対する興味・関心」の芽を大事に育ててあげることは否定されるべきではないといえます。生徒一人一人の興味や関心には,当然個人差があります。一人の教師が繰り広げる「教室での世界」では学べない世界がそこにはあるのではないでしょうか。そのとき「探求学習支援者」としての役割が,教師には生じるのです。