4.ナビゲータとしての「数学玉手箱」
4_1.もうひとつのコンセプト
「M.Sanae'S HomePage」には数学とソフトウエアについて検証していこうというコンセプト以外に,もうひとつの側面がある.それが「数学玉手箱」である.まずは前文を紹介しよう.
"数学"と聞いただけで顔をしかめる人も多いと思います。方程式,公式,証明…その行き着くところは受験? 数学にもパズルや推理小説のように楽しかったり,わくわくするようなそんなところもあるのではないでしょうか。ただ,学校の授業ではそんな楽しみも伝わりにくい点もあるのも事実です。
数学の中に潜む多くのトピックを集めていけたら,と思いこのページを作ります。星の数ほどある話題を集めるのは大変です。ですから,このページは焦らず,じっくりと作っていこうと考えています。誰でも知っているそんな話題から少しずつ・・・。
また,ネットワーク型教材データベース「数学のいずみ」の中に収められている様々な話題を,ダイジェストにしながら紹介していきたいと思います。もともとの話題のアドレスを載せていきますので,もし興味がわけば本編のページで詳しく調べてみてください。
「数学のいずみ」のミニチュア版,それを数学ソフトを駆使することで,よりViasualに再現していく.それが「M.Sanae'S HomePage」のもう一つのコンセプトといえる.
4_2.よりビジュアルに,よりコンパクトに
このページは数学の中に潜む様々な話題をよりビジュアルに紹介し,数学に対する興味・関心を引き出していこうという目的がある.生徒へのアクセスについては練習問題や単元テストの裏に印刷し,数学通信的な色合いの物となっている.授業の中でトピック的に取り上げ,授業の内容とプリントとをタイアップさせて生徒に紹介している.例えば関数の単元で「ブラックボックス」を用いて関数f(x)を説明するときに,"函数"としての教具を実際に紹介しながら,そのまとめとしてプリントで説明するなどすると効果が大きかったと思われる.
取り上げている内容は私自身がこれまでのつたない経験の中から培ってきたもの以外に,多くは「数学のいずみ」の中で紹介されてきたものをダイジェストにして紹介している.前述したように「数学のいずみ」は地道に積み重ねてきたその蓄積が膨大な量となり,一見しただけではその全体像を把握することが困難になってきてしまっている.また研究会のレポートを中心として掲載しているため,内容が一般向けとして考えた場合難しいものが多い.そのためもっとコンパクトに,より分かりやすく一般向けにする必要が生まれた.それが「数学玉手箱」なのである.
4_3.どんな内容か
「数学玉手箱」に収められている内容はどれも一般的なものばかりである.一般的ではあるができるだけVisualになるように心がけている.題材は現在の所100個以上が収められているが,あせらずじっくりと育てていこうと考えている.次に収録されている内容からいくつか紹介したい.(APPENDIX_2 「数学玉手箱 CONTENTS」参照)
- 展開公式の図的解釈
(a+b)3の展開公式を,1辺がa+bの立方体を8つの直方体にわけたときの体積の和と考えVisualに説明する.
- 2次3項式の展開
(a+b)nの展開式に現れるパスカルの三角形.これを(a+b+c)nまで拡張し,立体的なパスカルの三角形から説明する.
- 2次方程式の解を作図する
与えられた長さを持つ線分を解に持つ2次方程式.その解を図示するにはどうしたらよいか.
- ブラックボックス
ダンボールで作ったただの箱だが,入り口から何かを入れると,箱の中である働きをして出口から出てくる.そんなブラックボックスを実際の写真で説明.
- 三角形の重心とアファイン変換
重心は各中線を2:1の比に内分する性質を,変換の性質をもとに即席で説明する.
- カメの描くグラフィックス
一匹のカメを用いて平面上に図形を描画するソフト「ロゴ」.最も大事なポイントは"カメの立場に立って"考えてあげること.
- 即席!テトラパック
数実研の講習会で教えていただいた即席,正四面体の作り方.(実際にはテトラパック≠正四面体であることに注意!)
- 3倍角の公式
3倍角の公式は覚えづらく,あまり面白みのない公式といえる.この公式を2つの観点から考えていく.
- 3次元グラフィックスで見るベン図
集合の一般的な関係を表わすのに用いる"ベン図".普段は丸い円を用いるところを3DCGで鮮やかに描いてみる.
- 約数の個数
正の整数x=apbqcr・・・の約数の個数は(p+1)(q+1)(r+1)で求まるが,これを3次元分子モデルを使って説明する.
- Σk2の図的解釈
Σk2の公式を図的に簡単に解釈する方法を2つ紹介.
- 00をイメージ化する
指数の学習でa≠0のときa0=1と習うが,では00はいくらになるのであろうか.3次元図形をもとにVisualに説明する.
- 積み木を重ねる
y=ex のグラフをy=xnの積み木グラフを積み重ねて近似してみる.
- ベクトルグランプリ
向きと大きさを指定して矢印を指定して,コースをできるだけ少ない本数で疾走する.
- 一次独立を使う問題
ベクトルの一次独立性を使った問題を,小学校の理科の授業で習ったてこの原理を用いて解いていく.
- 虚円のイメージ化
「x2+y2=−1て円はどんな円?」 世界を実平面から虚平面へと広げることで,新たな「虚円」の世界を垣間見る.
- 波面にみる2次曲線
池に小石を投げ入れたときにできる波面.その中に隠れている2次曲線を考える.
- いろいろな変換
1次変換によって表わす行列を変えることによって,最初の絵がどのように変化していくか?
4_4.ナビゲータとしての役割
インターネットは一斉学習としての学習手段としてはかなり不向きであると考えられる.しかし,個人の学習としては考えられないほどの威力を発揮するのではなかろうか.ネットを通して自分にとって有用な情報を集める,最新の情報が配信される,わからない部分をメールで投げかけ多くの意見を聞く・・・.インターネットは様々な可能性を秘めている.その中でも情報を集めるという側面は,これまでの"書物"という媒体を通して行ってきた作業をかなり変容させたといえる.ネットではその情報が早く,広範囲に得られるばかりではなく,テキストベースであった情報を画像や音声をはじめとしたマルチメディアへと,さらにJava,VRMLなどのソフトウエアを用いてよりインタラクティブに得られることとなった.
ここで問題になるのはそうした有用な情報を如何にして手に入れるか,ということである.当然検索システムを使ってもできるが,自分にとって有用だと思われる情報一つを手に入れるだけでも案外時間がかかるものである.そうした"情報の在りか"を生徒にナビゲートすることが,教師としての大事な仕事になっていくのではなかろうか.「数学玉手箱」に収められている題材は,できる限り引用してきた"在りか"を明示するようにしている.その"在りか"は以前のような書物ではなく,ネット上における"アドレス"なのである.こうした情報を提供していくことがこれからは求められるのではなかろうか.