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5.これからの予想される方向性

5_1.資料庫としてのWWW  最後にネットを通した数学教育の今後について考えてみたい.数学教育にとってネットが有効になるかどうかは,まず有用な情報がどれだけ存在ずるかが大きなポイントになると思われる.ネットが教育現場に登場するようになって既に4〜5年経つが,数学に関する情報の絶対量は依然として不足しているのが現状である.トピック的なものもそうであるが,実践記録の蓄積が非常に少ない.「インターネットの教育利用の現状 '98」においても,不足している教育・学習情報のトップは相かわらず「教育実践事例報告」で,'97年度の35%より更に増加して43%にもなっている.

 "今の""この"題材や実践を次にも生かしていく,そうしたデータを"資料庫"として蓄積していくことが大事であろう.全国の各県(北海道も含まれる)では教材のデータベース化をしようと試みている.しかし多くは,数学に関してその機能を十分には発揮していない状態である.その原因は2つあると思われる.1つは情報の絶対量が少ないこと,もう1つは各県が個々に行っているため県毎に中に閉じてしまっている点である.国が中心となったデータベースの構築が望まれる.

5_2.数学用ソフトの流通によるコンピュータ教育の活性化

 ネットの将来を考える時の2点目として,ネット上に存在する数学用フリーソフトウエアの流通という点がある.ネット上には数学用のフリーソフトウエアが少しづつ増えて,学校現場にも徐々に浸透しつつある.例えば関数表示用ソフト「Grapes」や「FunctionView」,言語ソフト「10BASIC」,作図ツール「GC」など完成度の高いソフトがネット上からダウンロードすることができる.それも最新の状況で.

 昨今「ソフトがなければただの箱」と言われたコンピュータも,高騰する市販のソフトがなくても立派に活用できるわけである.私の場合授業で生徒に使わせるソフトの多くは,こうした手軽なフリーソフトが多い.この傾向はネットの普及と共に更に拡大し,コンピュータ教育の活性化につながるであろう.

 なおフリーのソフトについてまとめた次のページも参照して頂きたい.
 ⇒「ネット上からダウンロードできる数学用フリーソフトウエア」
  http://www.nikonetor.jp/spring/MathSoft/MathSoft.htm

5_3.除去される"教室"の枠

 次にマルチメディアやメールを通したネットワークコミュニケーションの広がりが考えられる.ネット上での興味・関心の喚起と同時に,そうした題材に対する意見・質問がメールを通して行われる.そうしたやりとりはネットの普及に伴い,教師側に急速に広まることが予想されるが,学生にも普及し"教室"という枠が除去されるであろう.既に受験産業ではネットを活用した講義や商品を打ち出し,ある私立高校ではメールを利用した課題のやりとりなどが行われている.いつのまにか学校だけが旧態依然とした授業のままでいることも予想される.学校の特性を生かした授業とネットの関わりをどう考えていくか,これからの大きな課題であるといえる.

5_4.環境整備は本当に大丈夫なのか

 さて先に学校現場にもコンピュータの設置も含め,ネット環境も整いつつあると述べたが,本当に大丈夫なのであろうか.北海道に目を向けて考えてみよう.コンピュータの更新時に40台(1人1台)が整備され,構内LANも同時に整備されるようになってきた.ネットも11年度中には約150校が接続される.しかし"つながっている"のと"十分活用できる"のとでは大きな違いがある.現在の予算では専用線接続は保証しておらず,ほとんどがISDNによるダイアルアップ接続である.現実的にはとても満足に利用できる状態ではないのである.先に見た指導できる教員の割合,そして"いかに活用すべきか"という基本的なオピニオンの欠如とあいまって,教育現場に根づくにはかなり時間がかかると予想される.

5_5.次期カリキュラムにおける数学とコンピュータとの関わり

 現行課程においてコンピュータに関する分野は数学A,B,Cに分散されているが,新課程では数Bのみ扱われる.その代わり?に教科「情報」が新設される.概略は示されたが具体的な方向性が見えてこない.しかし,現課程における数学の内容とはならないことが予想される.数学的な見方・考え方を重視するよりも,コンピュータリテラシーとしての"スキル"を身につける学習が主体となるであろう.いつのまにか数学の教員が情報の教員になってしまう,そんな事態も起こりえる.そして情報技術ばかりが先行し,逆に数学の中におけるコンピュータ教育が後退する危険性もはらんでいる.

5_6.おわりに  ―地道な活動を求めて

 このレポートではネットにおける数学教育とソフトウエアについて,私自身のページを例に取りながら考えてきた.数学という一般的には敬遠されがちな教科を,いかに根づかせていくか.ネットを使ったプロジェクトにはマスメディアをにぎあわせたものが多数存在する.そうしたものにとらわれず地道な教育活動を続けていくことが,この北数教の活動としても意味のあるものとなっていくなかろうか.

1999.8.23

《参考資料》

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