北海道苫小牧東高等学校
矢嶋 裕之
はじめに
過去4本のレポート(『Is this a revival?』 1, 2, 3, 4 )で、新科目「数学基礎」が昭和25年〜29年頃の「生活単元学習」のリバイバルではないかということを述べてきた。10月に入った現在のところ、新しい動きが出てこないので、こちらの方は「一休み状態」のままである。そんな折り、自分の娘(小学校2年)の時間割プリントを見ていた私は、過去のレポートで紹介した(生活単元学習当時の中学校の数学の教科書にあった)「遠足」という単元の内容によく似たことが、小学校2年生の生活科の体験(見学旅行)として展開されていることを知った。本稿は、過去4本のレポートの中で述べてきた「生活単元学習」の追補的資料としてまとめたものである。「生活単元学習」についての理解が少しでも深まれば幸いである。第1章 このレポートを作ることになったきっかけについて
教師になってすでに20年がすぎた。しかし、高校の教員であるせいもあり、10年前あたりから小中学校の学習指導要領も変わったり、これまでの小学校にはなかった「生活科」という「道徳」とは別の科目が登場してきたことは断片的に知っているにすぎなかった。そして、高校でも平成15年度から「情報」という新教科が創設されたり、数学の中の新しい科目として「数学基礎」という科目が出てきたのと同じように時代の変化なのだろうという程度の浅い認識しかなかった。一方、自分の娘が昨年度から小学校に上がり、父親参観日やPTA主催の軽スポーツ大会など各種催し物で小学校へ行くようになると、父親という立場と同時に教師という観点から現代の小学校の教育というものに少しずつ興味が湧いてきた私だった。そんな折り、週1度学校からもらってくる次週の時間割表(娘の通っている小学校では、このように1年間を通しての時間割らしきものはなく、1週間単位でプリントで知らせてくるシステムのようである。3年生以上もそうなのか、又、近隣の他校もそうなのかなどは、もちろん私にはわからない。)を見て、ハッとしたことがあった。小学校2年生の生活科の1つの単元「のりものに、のりたいね」は、過去の私のレポートで紹介した「遠足」という「生活単元学習」時代の単元に展開がよく似ている。娘の教科書を読んだり、小学校の学習指導要領や関連資料などを紐解き始めたのはこんな経緯からであった。自分が調べたことのすべてをまとめきれないかもしれないが、現時点での私見などをまとめたいと思った。それが、このレポート作りを始めたきっかけである。第2章 小学校2年の生活科の「のりものに、のりたいね」の展開について
小学校の教育内容について十分知っているわけではないが、娘から聞いた話や学校からの各種のお便り(学級通信や学年通信などのプリント物)をもとに、娘たちが体験した「見学旅行.郵便局へ行こう!」の様子をまとめると次のようになる。@事前学習
生活科 ・「手がみを出したいね」
【主な取組み内容】
先生からの説明と実際にはがきや便せんに手紙を書いて、封筒等に宛て名や宛て先そして郵便番号を書き、切手を貼る(発送は見学旅行の日に)といったもの。
その他 学級での先生からの説明など 「のりものに、のりたいね」の単元は、車社会と言われている現代にあって、苫小牧市の市営バスやJRといった普段あまり利用しなくなってしまった公共交通機関を利用して、自分たちの住んでいる地域がどのような所なのかを知ろうというものではないかと思われる。学校からのお便りを読む限り、次のような体験学習として見学旅行を位置づけているようである。
A当日の体験学習
- 実際に市営バスに乗り、個人ごとに料金を払う体験をする。
- 苫小牧郵便局(本局)で郵便の仕組みを学習する。そのとき、教室で書いた手紙を出 してどのように配達されるのかを学習する。
- 駅で切符を買う体験をする。
確かに現代の車社会にあって公共交通機関を使うことも少なくなり(私の所は妻も車を持っているのでよけい)、学校でこのような体験をしないとなかなかバスには乗らなくなってしまっている(現に、私の娘はバスというと、幼稚園の通園バスや苫小牧と札幌間の都市間バスといったイメージを強く持っていた)。もっとも身近な交通機関であるということは、教えないとならない時代になってしまった、時代の流れを感じる私である。
第3章 生活科と生活単元学習のかかわり(その1〜私の考えた仮説の提言)
1章で述べたような動機、そして、その直接的なきっかけになった娘の学校でのことについては2章で述べた。しかし、単にこれだけでは、このようなレポートを作る必要性はあまりないと思う。しかし、このふとしたひらめきが正しいものか否かを判断するために道立図書館へ行って関連する書籍を拾い読みした際に、かねてから私が感じていた「数学基礎」の登場背景についての基礎的な部分が正しそうな予感がしてきたのである。この章ではやや大胆な仮説と現時点まで私が調べ学んだことを書き留めておこうと思う。私が考えた仮説
- 「数学基礎」が今回登場してきたのは、突然というのではない。
- 例えば小学校の生活科にみられるように「生活経験を重視した教育内容」に今また戻りつつあるのではないか。言い換えるならば「詰め込み主義」から「生活経験カリキラム(一種のコアカリキラム?)」への変遷。
- その延長上に今回の「数学基礎」という科目が登場してきただけではないのか。
ということであった。このことは小学校の生活科について学べば学ぶほど強く思えるようになってきており、短期間であれ腰を据えてこの生活科について調べてみるのもよい機会だと感じている。
おわりに(未完成のいいわけに代えて)
毎日の通勤に使っている軽登山用(アウトドア用の?)のリックのサイドポケットに、10月の初めに書きかけのこの原稿を入れたまま、1ヶ月半があっという間にすぎてしまった。12月の数実研に間に合うように完成させるつもりだった本レポートだが、見学旅行の引率やその後体調を崩してしまったことも災いして、当初通りには完成できなかった。今回発表せずに、完成後次回の数実研で発表することも一時期考えたが、現在調べている部分のレポートの量がかなり大きくなりそうなため、このように前編と後編に分けて印刷することとした。
現在の私は、主専攻であり教員になる動機であった新教科「情報」の準備を進めながら、「数学基礎」という好きでもない数学に関連したこれらのことを研究している。自分でもやや懐疑的に「人生ってこんなものなのだろうか(うまくはいかないものだ)」と思っている次第である。11月30日
定期考査初日を終え、静まりきった校舎にて記す
【参考文献】- 生活科授業の探求と実践 魚住忠久 著
- 生活科教育の理論と方法 中野重人 著
- 改訂 小学校学習指導要領の展開 生活科編 中野重人・高岡浩二 編
- シリーズ 授業E 生活科 紙を作る・ヤギを育てる 稲垣忠彦 他9名 編