空間図形の指導 その方法と実践

札幌稲北高校 早苗 雅史

  1. はじめに
  2.  北海道の折り紙教育の権威である加藤先生(岩見沢西高校)が「折り紙と数学」の中で,次の様に述べられています。
     「次期指導要領では,中学校での幾何の一部(立体の切断,重心,接弦定理等)が削除,あるいは高校へ移されると聞いています。一番恐れていることは冒頭でも述べましたが益々空間的造形感覚が乏しく,実体験の少ない生徒が増加するのではないかということです。幾何が論証に偏重してまうのではという不安もあります。
       ・・・
     今,幾何が中・高で一番問題ではないかと思っています。次期の指導要領でもその全体像が明確になっていないと思うのは私だけでしょうか? 私は初等幾何を高校で学習した最後の世代です。それをもう一度とは思いませんが,投影図などを含めた立体図形の指導がもう少し重視されるべきだと思います。」
     現課程では小学校高学年で立体の切断や展開を学習します。しかし,思う様に指導できる時間を確保するのが大変だという事もあるのでしょうが,生徒への定着はかなり低いようです。高等学校においても,空間における造形感覚はもちろん,座標感覚でさえままならない生徒が多いといえます。
     次期課程では学習内容の削減の最もターゲットにおかれたのが,平面図形・立体図形だったようです。それは当然の事ながら,生徒にとって“理解しづらい分野である”ことが大きな要因と考えられます。
     加藤先生が危惧されているように立体図形の指導がもっと重視され,またそのための指導法もきちんと用意していくことが大事だといえます。

  3. 学習指導要領における取り扱い
  4. 指導の方法
  5.  空間図形の有効的な指導の方法にはどのようなものが考えられるでしょう。加藤先生のような折り紙を用いるなど作業的な方法を取り入れるのも,実際に自分が体験したことで大変有効的だと分かりました。
     また根室高校の長谷川貢先生は模型を用いて,より視覚的なイメージを大事にした実践を行っています。長谷川先生はレポート「模型を用いた効果的な教科指導について」の序文で,
    「空間図形の扱いが困難なことの要因として考えられるものを上げてみることにする。第一には,黒板に図を描いても,それが立体的に見えないことが多いので,問題のもっている図形の位置が想像できない。第二には,座標をどのようにとればよいのかか分かりにくいことであろう。」
    と述べておられます。まさに基本的なイメージが構築できないことへの危惧が懸念されているわけです。
     このレポートでは加藤先生や長谷川先生の意図するところを,コンピュータを用いて如何に有効的に実現できるかを目的としています。

  6. 指導の可能性をひろげるソフトの数々
  7. いかに実践するか
  8. 課題と可能性
  9.  3次元空間における学習指導のコンピュータの有効的な活用法を模索してきたわけですが,更なる実践と研究が求められることは明らかです。
     今回の実践では実際に生徒にコンピュータに触れさせた上での実習形式の授業でした。扱った内容も空間図形の座標の取り方,ぞれに基づく平面・図形の作成,そして移動という限られたものでしかありません。しかし,板書だけでは不可能な部分を補い,空間における座標のイメージを膨らませるには,有効な方法の一つではなかったかと思います。
     空間図形に限らず他の分野においてもそうですが,指導の方法はコンピュータである必要はまったくありません。他の教材や教具同様,コンピュータは活用の一つの“道具”でしかないことは自明です。コンピュータにとらわれず様々な指導法の模索がこれからも求められていくのではないかと考えます。

    1998.5.17