3.コンピュータを利用した授業作りの実際
それでは実際の実践例をもとに,活用の仕方を考えてみましょう。なんでもかんでもコンピュータを用いようとしてもうまくはいきません。活用の効果がない場面での使用は,逆効果を招くだけです。コンピュータより教具を用いる方が,効果的な場合も多いといえます。また,一昔前と違ってコンピュータに触れるだけで,生徒が興味・関心を持つわけではありません。きちんとした内容が伴わなくては,生徒にとってつまらない授業になってしまうといえます。
3_1 コンピュータを授業で利用する目的
まず,何のためにコンピュータを利用するかという基本的な押さえをしっかり持つことが大事だといえます。基本的には,次の点が挙げられます。
- 生徒の授業理解度を高めるため
教える題材の中には板書だけでは伝えきれない場面に遭遇することが多くあります。例えば,グラフや図を多く用いる題材や3次元空間などではコンピュータは効果的です。
- 発見学習的な要素
シミュレーション型のソフトや図形作図ツールなどでは,コンピュータを通して得られたイメージやデータから数学的な考察を行うことが可能です。
- 科学的な思考力の育成
現在,数学A,B,Cにおいて導入されているアルゴリズム関係では,数学的な要素を通してコンピュータの仕組みを知ると同時に,科学的な思考力の育成を目指しています。
- 生徒に数学に関する興味や関心を喚起するため
情報化や社会の変化に伴い数学の必要性が増してきているにも関わらず,生徒たちの数学離れが確実に進んできています。「数学に対する興味・関心」の芽を大事に育ててあげることも大事です。
- ネットを通した教材研究
ネット上に存在する数学の題材を調べる。
3_2 コンピュータ利用時の留意事項
コンピュータ利用時に注意する点を押さえておきましょう。
- コンピュータ利用の目的の明確化
- 使用形態をどうするか(生徒一人一台での演習なのか教師主体のプレゼンなのか)
- コンピュータ利用場面の設定(どの場面で使用するか)
- 時間配分の設定(学習指導案の作成)
- 事前の準備(場所の確保,プリントの作成,必要ソフトの確認とインストール)
また,コンピューターは,あくまでも学習者を支援する一つの道具と押さえ,普段の授業の流れを乱さないように配慮することが必要です。
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3_3 実際の活用例を見てみよう 〜「2次関数」での活用を例に
それでは実際の活用例を2次関数を例に見てみましょう。2次関数での利用は最もクラシカルな利用といえますが,それだけに基本となる利用法を考えることができます。「2次関数」といっても,導入部分で利用したり,最大・最小値などの応用部分で用いるなどいくつかの場面が考えられますが,導入部分での実践例を紹介しましょう。
実践の大まかな流れはこうです。数T「2次関数」の学習の最初の3時間をパソコンを用いて学習。最初の2時間は,情報処理室で生徒がパソコンで「GRAPES」というソフトを用いて2次関数,1次関数のグラフを描画,プリントアウトするという実習形式。3時間目は,教室で教師がプロジェクタを用いて提示用の形式を取りながら,実習のまとめと説明という一斉授業の中でパソコンを活用しました。
実習形式の学習では,いわゆる"データ収集"という形で,自分で関数のパラメータを変化させることによって得られるグラフを集めさせました。得られたデータを切り取り,プリントに貼らせる作業と,それらをもとにどういった事が考察できるかという2点を課題として生徒に残しました。
一斉授業の提示形式の授業では,それらのデータをもとに,生徒の考察した事柄を指名しながら答えてもらいました。プロジェクタに映し出される「GRAPES」の画像をもとに,前次までの実習を追体験すると同時に,生徒の考察した事項をパラメータを変化させながら実証していきました。
3_4 若干の工夫点
取りたててよくある授業実践ですが,その中で自分なりに工夫した若干のところを挙げておきます。
- 2次関数の式の形を一般形から先に導入
(元)厚別高校の川崎先生の実践にもあったように,一般形の式を先に与えパラメータの変化を考察させました。一般的な形から導入する方がより自然で,特にパラメータbの役割が生徒に問題意識を持たせます。標準形での動きの単純さが引き立つことにより,標準形の重要性が感覚としてわかります。
- プリントアウトした画像をプリントに貼る作業による"実習感覚"
「GRAPES」のプリントアウト画像の初期値にちょうどあうサイズの枠を作り,切り取った画像をプリントに貼らせていきました。理科の実習的な感覚でデータ集を行うといったところでしょうか。
- 2次関数の一般形のパラメータbの説明の補足に「和関数」としてのイメージを導入
2次関数の一般形のパラメータbの持つ意味はなかなか難しいところですが,以前数実研で札幌新川高校の中村文則が発表された「和関数としての2次関数のグラフ」の考え方を補足として説明しました。y=ax2+bx+cのグラフをy=ax2とy=bx+cのグラフの和関数として考え,y軸上の切片cでy=bx+cの直線に接するということを,パソコンでパラメータを変えながら提示しました。このとき,3つのグラフを同時に描画するよりも,y=ax2+bx+cとy=bx+cのグラフを色を変えて動かした方がよりわかりやすいといえます。
- プロジェクタで提示するときの簡易スクリーンの使用
教室でプロジェクタを用いるとき,案外問題になるのがスクリーンです。備え付けてあればいいのですが,そうでない場合持っていくのが重たく,プロジェクタ,パソコンも用意しなければならないことを考えると億劫になってしまいます。そのため,授業に効果的と思っても実際に授業で行うのは躊躇してしまう,そんなことにもなってしまいがちです。そのため,布で作った簡易スクリーンを用意しました。
- 提示用授業実施時における準備
プロジェクタを利用した授業を展開するときに,もう一つ面倒なのが機器の準備です。接続のためのコード類は,あらかじめ接続しておくのがよいといえます。ノートパソコンとプロジェクタ,プロジェクタからの電源延長コード。こうしたものの準備を事前にしておくことで授業へのスムーズな移行が可能となります。また,プロジェクタはかなり小型化しているので持ち運びもできるのですが,やはりキャスターに載せて,教室に運んだとき電源を入れるだけの状態にしておくことが必要といえます。
3_5 授業での様子
授業での様子で気のついた点を簡単にまとめておきます。
- 中学校でパソコンに触れている生徒も多く抵抗感はかなり薄い
パソコンに初めて触れる生徒は以前に比べ,かなり少なくなってきているようです(実際にはじめての生徒に手を挙げさせて調べると,クラスにほんの何人かといったところでしょう)。中学校で行っていることと,家庭への普及もあるようです。
- ソフト「GRAPES」の操作法は簡単に会得
ソフト「GRAPES」を使用しての感想としては,まず第一に操作性が簡単だということがあげられます。生徒も関数の式を入力して,パラメータを変化させる,という作業はスムーズにいきました。残像を残すときに若干戸惑ったようですが,全体的には操作性に配慮された使いやすいソフトといえます。
- 作業は本当に熱心
パソコンを用いる授業のときは,あいかわらず生徒は熱心でした。課題が全て終わらなかった生徒は授業が終わっても残って作業をしていましたし,2次限目のときは始業前から揃っていました。
- "係数"a,b,cではなく"パラメータ"a,b,c
「GRAPES」で使用していた"パラメータ"という言葉を,生徒が自然に使ってました。普通,授業では"係数"a,b,cという言葉を用いることが多いのですが,"パラメータ"という言葉が自然と口につき,そしてその"パラメータ"を変化させるとグラフが変化する,という感覚が知らず知らずのうちに身についていたようです。
- 考察部分は物足りない?
考察部分の記述は,若干物足りない感じがしました。生徒の能力もあるのでしょうが,オープンエンドな問題に慣れていないという点もあるといえます。
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